余所事の話 玉座の意味

 ゼノンはギ・ダがようやく戦う気になったのかと、呆れたが、そうではないと思い直し、さらに呆れた。


 皆、少女の方を向いている。この弱そうな少女の魔人に挑もうとしていることがゼノンには見て取れた。


 情けない。弱者に挑みかかろうとは……とゼノンはふつふつと人狼たちに対し、怒りがわき上がる。


 さらにゼノンが呆れた事に、戦鬼ウォー・オーガの二人もいつの間にか、主武器である黒く巨大なハンマーを構えて身構えている。


 戦鬼ウォー・オーガを警戒していた魔人の一人が戦鬼ウォー・オーガと少女の間に立ち塞がる。


 オーガの恥さらしめ! 気が変わった。生かして帰さんとゼノンは決心する。


 リザードマンも五人でひとかたまりの陣形を構成しつつ、人間の少女を見ているが、そこに戦意は見て取れない。



「貴様らは、こんなに細く弱々しい魔人に挑むのか!? 情けない腰抜け共めが!!!」


「ガハハハハハハ!!!!! 大魔王ゼノン様は、のサラの顔すらも知らんかったのか!!!」


 再度ギ・ダが笑う。

 その声にはあざけりが多分に含まれていた。


「なに!? おまえがサラだと!!」


 場違いなほどの陽気さで、そうだ! とサラが返事を返した。

 それを聞き、ゼノンと対峙していた、ゴブリン王やスライムマンの三人もサラを囲む。


「おっと、待て。ギ・ダに…………えっと~~~~~~名前なんだっけ?」


戦鬼ウォー・オーガ、戦士長と副参謀長のググダ・バルボア様とゼリア・バルボア様ですよ。サラ」

 人狼を未ながら微笑を浮かべているゼラが口添えをした。


「お~~~~、そうだそうだ。おまえ達とは遊んだ回数がまだ少ないからな、まだ名前を覚えていなかった。許せ。ググタとゼリア。だが、もう覚えたぞ」

 サラはすまんすまんと照れたように謝っている。


「それと、セラ! ゼラ! アタシが一人で遊ぶんだからな!」

 その言葉を聞き、セラとゼラが肩をすくめて再び扉の両脇に戻った。


「とにかく、ギ・ダとググタとゼリア。お前らとは、ここでは遊べない。また玉座の間が目茶苦茶になったら、たまったもんじゃない。一時的に玉座の間がこんな場所になったのも、元はと言えばおまえ達が暴れ回ったせいだしな!!」

「まずは我と戦え!! 魔王!!」

 自分を無視して話を進めるサラに対し、ゼノンがどなった。


 その言葉を聞いて、サラがニコッと音が出るような笑顔を浮かべ、


「当たり前だ。この部屋のルールは玉座に座る奴と戦うのが、ここの唯一のルールだ」


 その言葉が終わった途端、


 サラがゼノンの横に突然現れ、拳がゼノンの腹へと刺さる。


 火鬼ファイアー・マンは炎の精霊を宿すため、火鬼ファイアー・マンに触る物は皆、業火がその身に燃え移るのだが、そのいとまさえ与えずに、ゼノンの身が二つになって吹き飛んだ。


 その力の余波で城がグラグラと揺れる。


 ゼノンの上半身と下半身が千切れた。

 サラはゼノンの上半身を掴み――


「アタシはな? 初対面では誰も殺さない事にしているんだ。強くなってまた挑戦しに来るといい」


その言葉がゼノンが初登城の魔王城内で聞いた最後の言葉となった。


――彼方へ向かって放り投げた。



       ◆



 続いてサラは、自分が血で汚れないように注意して、精霊が暴走して紅蓮の炎の塊となった、ゼノンの下半身も同じ方向に、投げ飛ばした。


「……あんな程度で、死なないよな? まぁ弱そうだし、死んでもいいか。なぁ」


「さて、次の相手は誰だ?」

 サラの言葉を聞いて、火鬼の側近、スライムマン軟体人とゴブリン王の一団が、我先にと、扉へ向かって逃げ出した。


「皆帰っちゃうな……。さっきの、えっと火鬼ファイアーマンの……、なぁ、なんて名前だっけ?」

 その問いかけに、ギ・ダ、ググタ、ゼリア、セラ、ゼラ、リザードマン、人狼たちは皆、首を横に振って答えた。


「……結局、いつもの奴等だな。まぁいいや、今回はリザードマンも観戦希望みたいだし……外へ行くか?」

 リザードマン達はサラを警戒するように壁際へと下がっている。


「儂もトカゲと同じじゃ、今日はやめておく。あの愉快な火鬼ファイアーマンと体の汚れで興を削がれた。部屋へ帰る」

 ギ・ダはそう言いながらも、なおもツメを収めない。


「おまえらはどうする?」

 戦鬼ウォー・オーガの二人にサラは話しかける。


「やる。ここではダメ、なら、外へ、行くぞ」

「よし!なら森へ行くぞ!! セラ、ゼラ!行ってくる。ググタとゼリア!! お前らは強いから楽しみだ!!!」


「サラ! 帰ってきたら、玉座を放り出して今まで何をしていたのか、絶対に話してもらうから!」

「わかった、わかった!! じゃあ、セラ、行ってくる!!」


 そう言い残し、サラは柱の間からピョンと、城外に飛び出した。


 その後ろに戦鬼ウォー・オーガとリザードマンが続き、人狼の一団は、しきりに体が汚れた事言い合いながら、扉から退出していった。



 玉座の間にはメイド服姿の魔人の二人だけ残った。

「じゃぁ、ゼラ。私は玉座を掃除する」

「分かった。私は絨毯のシミを探すとします」



 昔、秘者の誰かが言った。

 「魔界において玉座には一番強い者がそこに座る。座るのは簡単だ。だが、座り続ける事は難しい」

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