二号店の話題

 ジロにはエリカの機嫌は最高潮に達しているように見えた。酒が入った時に、ガルニエ商会の名を聞いてはテンションが高くなるのも無理はない。なとジロは微笑んだ。


「この四ヶ月どこに行っていたかだな。リーブの聞きたいのはその事だろう?」

「あっ!? それ、それ!! わたしも聞きたいも~~~ん」

 っと言ってジョッキを傾けた。

 ジロはその空いたジョッキに葡萄酒ぶどうしゅを注ぐ。


 エリカは子供にするように給仕をしたジロの頭に手を伸ばして、ジロの頭を撫でた。


 そしてエリカは、一気に中身を半分以上一息で飲み干した。


 こうなってしまっては、ジロはせめてエリカをぐでんぐでんに酔わせてから、話を進めたかった。


「知っての通り、先代のガルニエ当主、我らがマニー爺さまのガルニエ商会というのは、店など無く名称のみで存在、いわば爺さま自身がガルニエ商会であり、爺さまの趣味の結果商会はできあがり、数多くの者にとっては伝説の救世主のような働きを見せた商会だ。

「爺さまは二年前に、突然、それをほっぽり出した。そして俺の父サイラスや兄のランスはガルニエ商会を継がなかった。そしてお前らがの知っている通り、今現在は名称のみの存在では無くなっている」


「今や、あのオンボロ小屋が、ガルニエ商会かあ……悲しいなぁ~~」

 でも、私はその筆頭理事だと、エリカは胸を張った。


 ガルニエのオーナーであるジロも知らない事を言い出したので、とりあえず話は脱線し、三人はめる。


 話し合いの結果、ジロのガルニエには、筆頭理事と専属護衛兼会計士という役職が二人に一つずつ誕生した。それぞれ無給という事で話は落ち着いた。


「………話を戻そうか。二代目ガルニエ商会には二号店というか、出張店が存在する」


(というか、作らざるを得なかったって、こいつらに言えたらなぁ)


「初耳だもんね~~~。どこに構えたんですかぁ~~~?」

 酔ってるからか、口調が奇妙に混ざり合わさっている。


「あ~~~!! まさか、あんな事があったのに、お爺さまの所のカプールですか!?」

 なにを想像したのか、目の色を変えた。

 ジロがそうじゃない、バカタレ。とエリカを小突くと、あからさまにホッとした。


「おまえの学院の先輩であり、学院史初の満点首席卒業者がそんな馬鹿者に見えるのか? 見えるのだろうな」

「うん! 見えるも~~~~~~ん!」

 声がでかいと言ってジロは再度、エリカの頭を匙で叩く。

 カコンと小気味よい音が鳴った。

 痛い! と言いながらもなぜだか、すごく嬉しそうにするエリカだった。


「お前の酒は、陽気な酒だな」

 えへへへ~~~っとエリカは破顔はがんして、さらに機嫌を良くした。


「……どこに開店したのか当ててみろ」

 マニー・ガルニエが現在暮らすカプールを想像しただけで、エリカの酔いを醒ますようなので、問答方式がいいだろうとジロは考えた。


「先輩、それはまさか―――」

 リーベルトが血相を変えて口を挟む。


「リーブ! 待って! 私が当てる! うーん。領地だった南のリンガー地方? それか、マニーお爺さまが、かっこうよく支援金をお与えになった、オルデール地方だ!! リゼロッタの生まれ故郷! そうでしょ!?」

「違うな、不正解だ。酒を飲め」

 そう言ってジロは、エリカの持つ杯の底に手を添えて、エリカの口へと導いて、ウグウグ言わせながら、飲酒をあおり、エリカはご機嫌のまま、全てを飲み干した。


「じゃあ、東の二狼首渓谷オルトロスけいこくの辺り? あそこは交易路もたくさん交わってるし、店を構えるのも良さそうだし……。わかった! あのアデルと行ってた湖畔こはんでしょ? あそこならあんたもコネもまだまだ残ってるし、王都の流行にもみんな敏感だし!」


 頃合いだと思い、ジロは決心した。


「不正解だ。正解は北方の魔界インフェロス内にだ」


「――――――――え?」


 エリカが笑みを浮かべたまま、固まった。

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