再会の酒場
ルイネ城を出て、ジロは剣を受け取ると、安宿へは戻らずそのまま指定の酒場へと向かった。
その店は、宿から二十分ほど歩いた路地の奥まった場所にあり、その界隈にしては小綺麗な店構えをしている。
ジロは幼い頃から祖父に手を引かれて時々訪れていた為、顔馴染みが多く見受けられる、妻に先立たれた老店主とその孫夫婦の三人で切り盛りする店だった。
その常連客達はエリカやリーベルトを見ても、必要以上の色目は使わないし、自分の売り込みもしない。
だが、深夜になり皆に酒が回ると、多少は荒れ、その酔漢たちが度を過ぎると、店主や腕っ節の強い常連客の手によってに追い出され、翌日の来店時には店主に白い目で見られながらまた酒を楽しむ。そんな店だった。
女が買えるわけでもなく、近くの同形態の酒場では珍しく宿客も取っていない。
なので、この手の店には貴族はまず訪れない。
酒場は五分の入りといったところであった。そして三人がいつも座る場所が空いている。
ジロとエリカとリーベルトの三人が一緒にいても、寛ぐ時間を確実に確保できる店であった。
多くの顔見知りたちから毎度のごとく、災難だったなと、ジロの中ではもう解決済みの廃家問題を慰められる。
苦笑いしながら、挨拶を繰り返していると、店主の孫の嫁が近づいてきて、厨房の店主が呼んでいると伝言を伝えてくる。
ジロの祖父・マニー・ガルニエの顔なじみの老店主兼料理人に近況を報告して、評判の悪さを、こっぴどく叱られ、ジロは閉口した。
コラ、待て!話はまだだ!!と怒鳴る店主が料理中なのをいいことに、ジロは
入り口から見ると死角となる場所だが、席からは入り口がよく見える。他のテーブルからも距離がある。場所代と酒と料理の代金を若い嫁に払い、リーベルトを待つ。
まずはほどよく薄められた
久々の保存食ではない料理にジロが舌鼓をうっていた所に、私服のリーブと外套姿のエリカが姿を見せた。
二人はすぐに人垣に囲まれ、エリカに押しつけられそうになる杯をいちいち断りながら、牛歩の足取りでジリジリと進んだ。
二人は周りの人間を上手い事あしらい終え、席についた。
三人で、あらためて木のジョッキを持ち、再会を祝う。
三人分と思い頼んでいた料理は、ジロ一人によって大半が食べ散らかされていたので、改めてジロは二人分の料理を頼み、当たり障りのない会話を二人に話しながら料理を片づけていく。
新たに入店してくる常連客が、三人を見つけて時折席に挨拶をしにやって来たり、料理を作り終えた店主が三人に説教をする為に奥から出てきたりしながらも、三人とも
一時間もすると夜も深くなり、新たな来客もなくなり、三人の席へとやってくる
「さて、そろそろいいでしょう。先輩、話をしましょうか」
今していると、ジロはおどけてみるが、リーベルトはやんわりと軽口を拒否した。
「あの時から三人の間に隠し事はない。そうでしたよね?」
「どの時? 私達は
っとエリカが笑いながらリーベルトにからみ、リーベルトは話の邪魔だといわんばかりに、エリカの杯に酒をなみなみと注ぎいれる。
それをエリカはご機嫌になりながら、飲干していく。
「隠し事がないって言ったって、隠し事によりけりだろうが」
ジロはほろ酔い気分でエリカのように噛み付き、ジロは空杯をリーベルトの方に
「エリカ酒豪ですし、今は話の邪魔だから大いに酔ってもらいたいですが、酒に弱い先輩には酔ってもらっては困ります」
「……仕方ねえな。話すか。聞き方によっては、あんまりおもしろい話ではないし、小言なんかも聞かないからな、お前達が、そういった雰囲気になったら即閉会、二人ともこれでいいな?」
「ナンのコト?」
すぐにほろ酔い気分になるのにエリカはグイグイと杯を重ねていた。酔うのは早いがそこから酔いつぶれる事がないのがエリカが二人から酒豪と呼ばれる
職責の重圧から解放された為か、この酒場だからなのか、エリカは少女らしさを取り戻しながら、ぽわぽわと口を挟む。
「ここに第一回二代目ガルニエ商会、報告会の開催する!」
スプーンで空になった木皿を叩いて宣言した。
エリカが訳もわからず机やエールの木製ジョッキを叩いて、
「いいぞー、私達で盛りたてていくぞ~~!」
っと、周りの注目を集めない程度に合いの手を入れてリーベルトの杯に酒を入れる。リーベルトは苦笑しながら、それを一口だけ飲んだ。
ジロとリーベルト、いつだって二人はエリカには逆らえないからであった。
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