第2話

 これはprologueの内容とも少し被るところではあるが、彼がなぜ冒険者ギルドであのような対応を受けたのかについて触れるため、もう一度世界背景について触れたい。


 この世界の武器のほとんどには、魔法石、つまり魔法を使うのを補助するための石が埋め込まれている。

 そのため、剣のように魔法に特化していない武器しか持っていない場合でも、使用者に適正があれば大規模な魔法を使うことができる。また、どんなにセンスのない人でも身体強化の魔法を使って突撃することができる。


 しかし、魔法石は比較的希少性が高く、必然的に武器も高価になるため、一般に手が届きにくくなってしまいがちである。


 それを解決するために、各職業ギルドが作られた。


 例を挙げるなら、剣を中心とした武器を提供する戦士、杖など魔法関係全般を扱う魔導師、銃・弓を供給する猟師とかが一般的だろう。

 他にも、回復や蘇生を専門とした医術師(医者とは異なる)が存在するが、基本的なところは魔導師と変わりがないので省略する。


 さて、彼の職業、ポーターだけは少し特殊である。というのも、のである。その代わり彼らの所属するギルドである、運び屋ギルドが提供しているのは、魔法石を用いた「マジックバック」である。

 このバッグには、無限ではないものの、魔力が続く限りにおいてかなり多くの物を入れられる。また、魔力消費も殆どないので、良識的に使う分には魔力切れの心配もない。

 ちなみに、入れた物の量によって消費される魔力は多少増加するが、家の中にある家具を全て詰め込もうとするような、馬鹿みたいに大量に詰め込むようなことをしなければまず問題は起こらない。


 さて、ここで語りたいのはマジックバッグの話ではない。そうではなく、ポーターは「武器が一切支給されない」という点である。

 だからこそ、他の職業の人と組んで旅をしている時を除けば、魔獣の換金に立ち寄るようなことはないのである。当然、彼は換金の度に奇異の対象として見られているというわけだ。


 閑話休題。


 冒険者ギルドの職員に案内された彼は、カウンター脇の細い通路を通り、その突き当りにある部屋の、ひときわ大きな机の前に着いた。


「それでは、こちらにお願いします」


 彼はショルダーバッグに手を突っ込み、中からバーンウルフを引きずり出す。人が二人分横になれるだけの大きさの机はすぐにいっぱいになった。


「……いつ見ても、そのマジックバックには驚かされますね」


 ギルド職員が、バーンウルフの死骸とショルダーバッグを見比べて、感嘆したように呟く。


「ええ。人くらいの大きさのものでも入りますし、バックの口は入れるものに合わせてかなり大きくなりますし、何よりも他の荷物に干渉しないのがいいですよね」


 彼の話を聞きながら、受付の人は革製の手袋をはめる。そして、慣れた手つきでバーンウルフの死体を改め始めた。


「大きさは中、目立った傷は……、頭部の一ヶ所のみ、きれいに撃ち抜かれていますね……。これならいい値段をつけられそうです」


 少しして、軽く伸びをしてから、ふぅ、と溜め息をついた。そのまま隣にある書類の山積みされた机の引き出しを開け、中から紙とペンを取り出した。


「これくらいでいかがでしょうか?」


 彼は紙をのぞき込んで、頷いた。


「宿に数日は大丈夫なほど、というくらいですか、意外と高めなのですね」

「ええ、毛皮が良い値で売れる割に、リスクを考えてあまり狩る人がいませんからね」


 そんなものか、と考えながら、彼は金額の書かれた紙と死体のバーンウルフを見比べていた。



─────────────────



 冒険者ギルドでの用事が終わった後、その足で彼は運び屋ギルドへ向かう。

 ギルド会館の入口の前に着いた彼は、ショルダーバッグの中に荷物が入っているのを確認して、扉を押した。

 さて、荷物の手続きをお願いしようか。

 そう考えて中に入ろうとした時であった。奥の方から20代くらいの女性が駆け寄ってきた。


「いらっしゃ~い!お姉さんに何かよ~う?」

「ええと、ギルドマスター、ですよね……?」


 目の前の女性が大きくうなずいたのを見て、彼は嫌そうな顔をしながら溜め息をついた。ただ、面倒だ、と考えながら。

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