第3話
戦士から彼のようなポーターも含めた、いわゆる冒険者は、総じて陽気である。それゆえ、彼も食事時などに他の冒険者に絡まれることが多々あった。最初は真面目に対応していた彼も、ポーターに成り立ての頃は毎日のように絡まれていたため、ある種の「あしらい方」なるものを身につけてしまっていた。
しかし、子供扱いされるのだけは別である。彼は背がかなり小さく、それゆえに、彼は五歳近く年下だと勘違いされることが多かった。時には十歳に達していないような子供のように扱われることがあり、今年の夏で十七になる彼はそれを嫌がっていた。
「何をしに来たのかな?もしかして、お姉さんに会いに来てくれたのかな?」
「………」
彼は、嫌そうに睨みつけた。
「ちょっと待って、そんなに睨まないで、わかった、わかったから」
「……手続きをお願いできますか?」
ギルドマスター、もとい自称“お姉さん”は、彼の言うことに少し首を傾げた後、彼がショルダーバッグを背負っているのを見てから納得した様子で渋々カウンターに戻っていった。
「はぁ、てっきり小さい子がおつかいに来てくれたのかと……ちょっ、そんなニコニコ顔で銃をちらつかせるのやめて?ちょっと怖いから」
彼は無言で届けに来た荷物をカウンターに置いた。
「えっと……この荷物の確認をとればいいのね?」
「はい、よろしくお願いします。」
むすっとした様子で、彼が言う。“お姉さん”は、肩にかかったの髪を払ってから、カウンターのわきからスタンプ状の物を取り出して、荷物の伝票の上に押し当てた。瞬間、手を広げたくらいの魔方陣が広がり、消えていった。
「はい、終わったわよ。にしてもめんどくさいわね……、こんなことせずとも直接届け先まで渡しに行けばいいのに」
「確か目的地までついたことをギルド側が把握するため、でしたよね?」
まぁそうなんだけどね、と溜め息混じりで“お姉さん”は答えた。
「ところで、届け先の家がどこだかわかる?」
彼は荷物をバッグにしまいながら答えた。
「住所が書いてあるので大丈夫だと思いますが、一応教えていただけませんか?」
「ええっと、大通りに出て3つ目の曲がり角を右、突きあたりの左の家だね。確か年配の方が住んでいたと思うよ」
「大通りから3つ目を右、突きあたり左」
「うん、あってる」
“お姉さん”は、彼の復唱に間違いないことを確認してから思い出したように訊いた。
「そういえば、どこに泊まる予定なの?うちの母が宿やっているから、良ければ紹介するよ?」
「特には決めてないので、紹介していただけると嬉しいです」
「りょーかい。それなら地図渡しておくから。私の、いやエーデの紹介だと言えばわかるはずだよ」
「わかりました、エーデさん、ですね。ありがとうございます」
地図を受け取った彼は、軽く会釈をしてからギルド会館を後にした。
─────────────────
「……突きあたり左」
ここだ、と呟いて、彼は目の前の家を眺めた。木で作られたドアの黒ずみ具合は、この家の歴史を語っているようだった。
軽く深呼吸してから、軽く扉をノックする。中からドタドタと物音が聞こえてから、すぐに静かになり、
「どちら様だい?」
「ポーターです、荷物のお届けに参りました。」
「払う金はないよ」
「いえ、お代は既に頂いていますので」
「そうかい、そうかい」
安心した顔をして頷いた老婆は、荷物を受け取れるようにと玄関の扉を大きく開けた。
「それで、どちらからだい?」
彼は伝票の宛先欄が見えるように荷物を傾ける。目を細めながら伝票をじっと見つめた老婆は、懐かしいものを思い出したかのように頷いた。
「あぁ、これは私の孫からだよ、長いこと会っていなかったからねぇ……。ところで、それ、いま開けてもいいかい?」
「ここにサインを頂けたら」
「……
老婆は、申し訳なさそうに笑った。
彼はショルダーバッグのなかを
「これはコップだねぇ、こんな物要らないって言ったのにねぇ、あの子ったら。おや、写真が入っているよ、これは……あの子、本当に結婚したんだねぇ」
届いたのを確認するようにもう一度老婆の顔を見て、彼は小さく会釈をした。
「それでは、僕はこれで」
「おや、もう行ってしまうのかい、そうだ、ちょっと待ってな、ええと、確かここら辺に……」
そう言って、老婆はポケットから飴を1つ取り出した。
「お前さんみたいな偉い子には、ご褒美だよ」
彼は、受け取ると一礼して、その場を後にした。こんな子供扱いならいいかも、と彼はふと思った。
大通りに出てから、彼はショルダーバッグに手を突っ込んだ。しかし、ふと探すのをやめ、空を見上げる。日の沈みかけた空は美しく、また寂しそうだった。
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自称“お姉さん”こと、エーデが書いた地図もあり、届け物が済んだ後、彼はほぼ迷わずに宿までついた。
中に入ると、目の前には階段と、右のほうに扉だけがある。それ以外には部屋の鍵を受け取れそうなところもなければ、会計を済ませられそうなところもなかった。店員すら歩いている様子もなかった。
はて、ここじゃなかったのか。
彼は首をひねりながらぼんやりと眺める。するとその時、右のほうの扉から、エーデが飛び出して来た。
「こっち、こっち!」
彼は、言われるがまま、右の扉を入る。すると、松明が照らす中を長机と椅子が所狭しと並べられていた。部屋には、調理の途中のような香ばしい香りが漂っていた。
──食堂だ。
まだあまり人の入っていない食堂の一角では、早くも奥の方で酒を飲んで騒ぎだしている冒険者らが長机一つを囲んでいる。まだテーブルに皿が並んでないところを見ると、料理を待つ間に酒を楽しんでいたのだろう。
エーデが、彼のだぶだぶなコートの裾を引っ張る。ほら、ここ空いているから、と言いながら、彼を近くの机に座らせた。
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