第12話

「おう、今日は無かったんじゃないのか?」

「……事情が変わったんだよ」


 サナの調整が終わった後、三人はテグルヴォに連れられて、広大な草原の一角のある所に来た。

 目の前には、レンガで出来た巨大な建物が建っている。その外見は、どこか草原の中にポツリと立つ牛舎に似ている、と彼は感じていた。


 サナが、待ってましたと言わんばかりにはしゃぎ回る。これから何をやるかを少しも聞かされていない彼はそれを不思議そうに眺める。

 その間に、テグルヴォは、の大きな建物の前の木に掛けられたハンモックに横たわる巨人に確認をとっていた。


「今日も飛ばせるだろ?」

「ん? 別に問題は無いはずだが」

「ならいい。一羽、借りるぞ」


 確認が取れたのだろう。テグルヴォは、彼らの元へと戻ってきた。


「んじゃ、入れ」


 テグルヴォの後ろに続いて、彼らは建物の中に入る。

 獣臭い匂いが充満する中に、檻が並んでいた。その中にいたのは、巨人よりも遥かに大きな「鳥」であった。

 人族一人くらいなら軽々と飲み込みそうな大きな嘴を持ち、羽ばたけば軽々と吹き飛ばされそうな、畏怖すべきな「鳥」であった。


 テグルヴォは、その中の一つの鍵を開ける。


「ここで待ってろ」


 テグルヴォは、「鳥」のいる檻の中に入っていった。


 バシッ、と大きな羽の音と共に、「鳥」はテグルヴォの方を向く。

 テグルヴォは、慣れたように「鳥」に近づき、羽の辺りを撫でた。「鳥」は落ち着いたかのように、巨大な図体ずうたいを下ろした。


「こいつは『雷鳥』だ。魔獣だが、生まれた時から飼い慣らしているから見ての通り基本的には温厚だ。手を出さなければ、の話だがな。ただ、俺らが扱うならまだしも、人族が相手だと体格差で怪我をさせてしまうことがある。ま、くれぐれも気を付けることだな。んじゃ、こいつを出すから。お前らは少し待ってな」


 テグルヴォは、四人用の鞍を壁から取って、雷鳥の背中に投げる。それを紐で雷鳥の体に縛り付けてから、檻から雷鳥を連れて出てきた。


「あの、一つ。もしかして、それに乗るんですか?」

「……そうだが?」


 さも当然、といった顔で、テグルヴォは答えた。


「もしかして、知らないで来たのか?」


 彼は頷いてから、サナの方を睨んだ。


「わ、悪かったって。ほ、ほら、一度聞いたでしょ?『高いところは大丈夫?』って。だから大丈夫かなーって」

「……そういうことでしたか」


 頭を抱えながら、彼は大きく溜め息をついた。


「どうするか、下りるか?」


 テグルヴォが、心配そうに聞く。


「いえ、大丈夫です」

「なら良いんだが。やめてくれよ、飛んでいる最中に失神とか」

「いえ、高いところは大丈夫なんですが。予想よりも高かったなー、って」

「……なるほど。ま、頑張れ」


 突然、テグルヴォに連れられている雷鳥が、鼓膜を突き破らん限りの声量でギィーッ、と鳴いた。

 雷鳥が暴れ出すことを警戒した三人は、その場で身構える。しかし、雷鳥はその場から一歩も動かなかった。


「……これ以上の話は後にしてくれないか。コイツも、飛びたがっているから」


 慣れた様子で、テグルヴォは答えた。誰も反対はしなかった。


「んじゃ、行くか」


 テグルヴォは、雷鳥を連れながら三人を建物の外へと案内した。



 ─────────────────



 建物を出て、彼らはテグルヴォに連れられて牧場の端の、特別に開けたところまでやって来た。

 テグルヴォは、雷鳥を座らせてから話を始めた。


「そんでまぁ、ここに来るまでに全く聞いてない奴も居るみたいだから、最初から説明するとする。これからやるのは、雷鳥の討伐だ。討伐、といっても全てを狩るわけじゃない。あくまで個体数の調整だ。

 雷鳥ってのは結構厄介な習性があってな。まず、個体数がある一定以上を越すと凶暴化する。俺らと一緒で増えすぎると食糧不足にでもなるんだろうな、きっと。それとは逆に、ある一定数以下となっても暴走する。

 そして、まぁこれは飛んでみれば分かると思うが、雷鳥は生息域が広い。だから具体的にどれくらいの個体数までなら安全か、とかまでは分かっていない。調べようがない、といったとこだ。

 ただ、どういうわけだが長老だけは、「今安全な個体数か」が分かるらしい。らしい、といってもどういう仕組みでそれを知っているのかまでは分からん。長老一族の秘密なんだとよ。何にせよ、俺らはそれを元にして俺らは狩る数を調整しているというわけだ」


 その方法さえ分かれば聞きにいく手間も省けるんだけどなぁ、とテグルヴォは頭を掻いた。よほど面倒なのだろう。


「というわけで、飛ぶ前に注意しておきたい事がある。まず、狩る個体はこっちで指示をする。それ以上は狩るな。これは、狩り過ぎによる被害を防ぐためだ。いいな?」


 三人は、頷いた。


「よし、なら次だ。飛んだら最後、戻って来るまで危険が伴う。ただ飛んでいるだけなら雷鳥の背中から落ちるような事はまずないが、奴らはとにかく襲って来る。襲われて、万が一にもバランスを崩したら、下に真っ逆さまだ。まず助からないと思え。

 それを防ぐために、今武器を持っていない奴には護身用の杖を貸すから受け取れ。そして、襲われたら容赦無く撃て。その時だけは個体数を気にしなくていい。元々、大目に見積もってはいるからな」


 テグルヴォは、杖が束になって入っている中から二本取り出す。それのうち一本を、コルドが受け取った。


「お前は良いのか?」


 彼は、ショルダーバッグから魔法銃 L-231 を取り出し、その場で掲げて見せた。


「銃持ってたんだ、お前」


 今更驚くこともなく、テグルヴォは杖を束に戻した。


「んじゃ、行くか。トイレ行っておきたい奴は今のうちに行っとけ。……それと、言い忘れてたが、杖は魔力を通せば何も考えなくても撃てるようになってるから。不安だったらそこで練習しな」


 それだけ言うと、テグルヴォは的の方を指差した。

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