第7話
「……いけそうか?」
「まぁ、概ね予想通りです」
翌日。看守の持ってきた朝食を食べ終わった彼は、男が軽々と外してみせた首輪を、魔法石に慎重に魔力を流しながら観察していた。
「……恐らく、ドレインとかアブゾーブとかの類ですね。いわゆる魔力吸収系です」
「……魔力吸収、か?」
「ええ、魔力を吸い上げるための魔法です」
「となると、魔力切れを起こさせて、気絶させる、というわけか。……物騒な魔法だな」
「……割と身近に使われている魔法なんですけどね。魔導ランプとか」
魔法石から手を離し、目頭を揉みながら軽く伸びをした後、彼は魔法書を三冊取り出しながら話を続けた。
「基本的に、人からの魔力供給なしにずっと魔法を使い続けなければならない物には使われています。そうでないと、例えば魔導ランプなら、人が魔法石を触って魔力を供給している間だけしか使えないようなモノになってしまうでしょう。
もしそうだとしたら、両手が空くと言う点で、使い捨ての蝋燭の方が何十倍も便利でしょうね」
「ちょっと待て、それだったら魔導ランプを使っている間に気絶する奴が出ないか?」
「そこは……、ええと、リミッターが働いているから問題ないです」
「リミ……、ええっと、何だって?」
「リミッターです。因みに魔導ランプでいうなら二つ、厳密にいうなら一つ備わっているのですが」
開いたままのショルダーバッグの中から、魔導ランプを取り出してみせた。
「一つは魔力を吸収する強さに関するもので、これはドレインの魔法陣の方で制限する物なので、正直あまり当てになりません。というのも、吸収量そのものを制限するわけではないので」
話しながら魔法書を開いた彼は、それに目を通して、やっぱりか、と呟いた。
「そしてもう一つが、魔力の吸収量、厳密に言えば魔法石が扱う魔力の量を制限する魔法です。ドレインの魔法陣とは別枠で、リミッターと呼ばれる魔法陣の方で制御されています」
「……ちょっと待て、話がややこしくなってきた、整理しよう」
男は頭を抱えながら言った。
「結局、リミッターってどこにある何だ?」
「……分かりにくかったですかね」
小さな手を顎に当てながら首をひねり、少し考えた後で彼は答えた。
「広義では魔力吸収を制限するための機能、もしくはその機能を持つ部分全て。厳密に言えば魔法陣が扱う魔力量を制限する魔法の名前です。例えとしては適切かは分かりませんが、乗合馬車を考えると分かりやすいかもしれないです」
そう言うと、彼は右手で四角い箱のようなものを作ってみせる。
「乗合馬車って、こう、入口が一箇所にあって。大抵、人一人か、頑張って二人くらいしか同時に乗り降りできませんよね? これが、一つ目のリミッターです。もう一つが──」
「乗りすぎにならないように、乗車制限をかけたり、人を降ろしたりして人数を調整する機構、ってとこか」
「ええ。まぁ、人を下ろす、もとい吸収しすぎた魔力をその人に返すような魔法機構は、僕も見たことがないですけどね」
「……今のでなんとなく分かった。続けてくれ」
「どこまで話しましたっけ」
首を傾げながら、きょとんとした顔で見上げてくる彼を見て、男は顔を顰めながら再び頭を抱えた。
「……魔力吸収の話だ」
「あっ、そうでした、そうでした。それでなのですが……」
再び首輪の魔法石に魔力を流しながら、彼は取り出した魔法書に書かれた魔法陣と魔法石に書かれた魔法陣とを再び見比べた。
「一応この魔法陣を見る限り、吸収する強さの制限が無くなっています。魔法の名前の方の“リミッター”の魔法陣らしき物はあるのですが、それも殆ど機能していません。
それとさらに厄介なのが、魔力吸収の系の魔法は、一般的に一度起動してしまうと、吸い上げた魔法を使って幾らでも機能し続けます。つまり、気絶するまで、場合によっては気絶した後もこの魔法陣をは魔力を吸い上げ続けます」
「……最悪だな」
「ええ、それに……」
「それに?」
話の続きを聞こうと彼の方を見る男を、彼は呆れたような顔で見た。
「この首輪、外すのに失敗しても魔法が起動するようになってます。……よく外せましたね」
「あー、暇だったからな。この牢獄にぶち込まれてから数えられる限りで2ヶ月間、誰とも話す機会がなければ、自然と憂さ晴らしの対象はその首輪に移るのさ」
「なるほど」
彼は、説明のために取り出してあった──結局使わずに済んでしまったが──魔導ランプをしまい、魔法書もしまおうと手を伸ばした。しかし、ふと重大なことに気がついて動きを止めた。
「一応聞きますが、一発で外せるわけ無いですよね」
「まあな。毎日気絶して、たまにサボって、それでようやく、といった所だな」
「……やっぱり、色々とおかしい」
「何が、か? 俺の話が不自然だとでも言いたいのか?」
「いえ、そうじゃなくて……、ただ」
「ただ?」
天井の方を見上げて少し考えてから、やっぱりそうだな、と自分に言い聞かせるように呟いた後で、彼は結論を出した。
「やっぱり、僕を殺す気はないようですね」
少し間を置いてから、付け足すように説明を続けた。
「首輪にしても、何度気絶しても命を落とすことがない。恐らく、機能してないと思っていたリミッターの魔法が実は機能していて、殺さないように制限していた。そう考える方が自然です」
「なるほど。……まぁ、それはあの馬鹿な国王が首輪の仕組みを知らなかっただけかもしれないがな」
「それと、……実は兵士に囲まれた時から薄々気が付いてはいました。どうして銃を構えても撃って来ないのだろう、撃てばさっさと仕留められるのにってね」
「あぁ、なるほど。そうなるか。もっとも他所者にまであの規則が効いていたとは思ってもいなかったが」
「規則……、ですか?」
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