第二章 スレイピア

第1話

 地下深くへと伸びる階段の両脇を、光属性魔法を利用したランプの僅かな光が照らす。その光が、一人の兵士と、その脇を歩く小さな少年を映し出した。


「随分長いんですね、この階段」

「……そうだな」


 天井からしたった水滴が、ポタリ、ポタリと音を立てる。その水滴の一つが彼の頭に落ち、それを払い落とすように彼は首を振った。


「ところで、一つ聞きたいのですが」

「……なんだ?」

「人はなぜ、人を支配するのでしょうか?」

「……唐突だな」


 少しの沈黙の後、兵士の方が先に口を開いた。


「そうだな、必要だからじゃないか」

「……必要だから、ですか?」

「ああ。……いや、違うかもしれない。ただ、……」

「ただ?」


 彼に、自分の顔を覗き込まれていることに気がついた兵士が、その場に立ち止まる。そして、──


「……分からん」

「そうですか」


 兵士が歩き出すのに合わせて、立ち止まっていた彼も、その脇を歩く。


「……ところで、お前、出身はどこなんだ?」

「フェ=ヴノワールですが」

「そうか、それじゃあ、遥々遠くからご苦労様、ってとこだな」

「……仕事ですから」

「……そうか」


 そのまま、彼らは黙り込んだ。

 彼らの階段を下る音が響き、階段のずっと奥の方へと吸い込まれていく。吸い込まれた音が二度と戻ってきそうに無いくらい、その階段の行き着く先はずっと遠くであった。


「……にしても、深いですね」

「そうだな。ただ、もう半分は超えたな」

「そうですか。……何から何までありがとうございます、さん」


 彼らは、そのまま階段を降りて行き、やがて二人の背中はランプの行列の中へ消えていった。

 上階から差し込む光は、その場からはもはや点のようにしか見えなかった。

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