第3話
食事を手早く終わらせた彼らは、狩りをせずに山道を登っていた。
「そう言えば、アルザって出身どこなんだ?」
「フェ=ヴノワールです、よく騎士国とか言われる国です。そちらは?」
「同じだな、ついでにセロもフェ=ヴノワールだ。となると、尚更ポーターは少ないよな?」
「そうですね、家の方針にもよりますが大抵は戦士か騎士として兵士になりますね」
「そうじゃなくとも、銃使い自体、結構少ないっすよ」
「そう言えばそうだな」
ダートが、確かに、と頷く。
「尚更変わり者だな、お前」
「よく言われます」
そう言われるのは馴れっこだ、という風に彼は笑った。
「ところでアルザ、魔法銃の件なんすけど、昨日の改造の話の続きを聞きたいっす」
彼は少し考えた後、左のホルスターからL-154を取り出した。
「今やっているのは、簡潔に言えば空砲です。どういうものかは……、実際に体験してみればわかります」
彼は、立ち止まってから誰もいない方へ銃を向けた。
「耳を塞いでいてくださいね」
「お、おう」
イタズラをする前の子供のような笑顔で言う彼に、二人は気圧されながら返事をして、彼から少し離れる。
ショルダーバッグから取り出した耳栓を付け、ダートとセロが耳を塞いだのを確認した彼は、引き金を引いた。
突如、ドーン、と雷が落ちたような轟音が鳴り響く。
遠くの木々から、驚いた鳥の群れが羽ばたいて行くのが見えた。
「い、今の何すか!」
腰を抜かしたセロを、やれやれ、といった様子で立たせるダートを見ながら、彼は耳栓を外した。
「今のが空砲です。思ってたより音が大きい気がしますが……、そこは調整あるのみです」
「いっ……いや、調整してもらわないと困るっすよ」
やっとのことで立ち上がったセロが、砂を払いながら、引きつった顔で言った。
「しっかしこんなでかい音を出して、何に使うんだ?」
「そうですね……、強いて言えば連絡用ですかね、離れた相手との」
「……まぁ、これだけ大きければな。他には?」
「そうですね、無いです」
「無いんかい!」
「無いんすか!」
ダートとセロの声が重なった。
「まぁ、考えれば無いことはないのですが。一応、魔法銃は弾を飛ばす時に、方向制御のために銃身内で風魔法が使われているのですが、それの確認作業には使えます」
「それって無駄多すぎだろ……」
「それでも、魔法弾を作らない分だけ魔法消費は少ないんですよ。……まぁ、今回は同じくらいでしたけど。……というより、普通の銃の魔法石だと、この魔法陣は書ききれないので、転用は不可能です。特に銃身に加速式の載っているL-231は」
「加速式、ってなんすか?」
「単純に言うと、中から飛び出す弾の速度を上げるための魔法陣です、仕組みは……」
急にスイッチが入ったように説明を始める彼に、ウンザリした様子のダートら二人。当然、彼の説明は右から左へと聞き流していた。
「もういいっす、頭が考えることを拒否したっす」
「そうだな、俺もだ」
「……そうですか、残念です」
銃と耳栓をしまった彼は、先に歩き出したダートとセロの数歩後ろに続いた。
─────────────────
「取り敢えず、ここまでか」
彼が空砲を撃った場所から三十分くらい歩いた所に分かれ道があった。
「ここを左に行くと、アプダスレア。お前は右だったよな」
「……そうですね。色々とお世話になりました」
彼は、深々と頭を下げた。
「……何言ってんだか」
「本当っすね、全く」
頭を上げ、きょとんとした表情で二人を見る彼を見て、ダートとセロは互いに目を見合わせ、やれやれ、といった風に苦笑いした。
「お前だってバーンウルフ狩ってただろ、全く」
「冒険者って名乗っても気づかないんじゃ無いんすか? 恐らくは」
「そうだ、忘れてた」
ダートは、ポケットの中からぐちゃぐちゃに丸められた紙を取り出し、それを彼の前で広げた。
「俺ら、アプダスレアの競技大会に出るんだ。もしよかったらお前も出ないか?」
「……人に銃を向けるのは、信条に反するので」
「そうか……」
ダートは、残念そうに紙をポケットの中に押し込んだ。
「ただ、着いたら直ぐに観戦に行きます。それまで勝ち残ってくださいね」
少し黙ってから、ダートはニヤリと笑った。
「当たり前だ。……まぁ、巨人様との合同試合だからな、心配なのはコイツだけだ」
「酷いっす!」
楽しそうに二人はからかい合う。
そう言えば、と前置きをして、彼が二人に訊いた。
「あまりよく知らないのですが、巨人ってどんなのなんですか?」
「……まぁ、フェ=ヴノワールには居ないもんな」
ダートは頭を掻きながら少し考えてから話し出した。
「まぁ、男性の平均身長が2メートルで、やけに長生きする種族だといったところか。確か二百歳くらいまで生きると聞いたぞ」
「平均で、2メートルですか?」
「ああ、そうだ。高いだろ? その分動作は遅いが」
「……じゃなきゃ勝てっこないっすよ、あんな力の強い相手に」
「でも、それを除けばティミーと似てますね」
「……あいつらも長生きだったっけか」
「そうっすね、寿命は確か百八十くらいじゃないっすか?」
「もう訳わかんなくなってきたな」
「慣れですよ、慣れ」
「……そんなもんか?」
「ええ、そんなもんです」
彼は、ショルダーバッグの蓋の留め具をを確認して、ダートらの方を向いた。
「それでは、これで」
「……そうだな、あっ、忘れてた!」
「今度は何すか、ダートさん」
「いやぁ、昨日出る前にクログから伝言を頼まれていてな……、出国に時間がかかったから言えるタイミングがなくて」
「クログからですか、何だろう……あっ!」
彼は、思い出したようにショルダーバッグの中を漁った。
「どうしたんすか、突然」
「い、いや、クログさんから預かっていた単眼鏡を……」
「ああ、その件なんだが……、お前にやるって」
「えっ?」
「先ももう長くないだろうから、やるってよ」
「あれは長生きするっしょ、言っちゃ悪いっすけど」
彼は、単眼鏡が入った袋を手に取り、それを強く握りしめた。
「……使わせてもらいます」
「おう、使え」
「それ、ダートさんが言うことじゃないっすよ」
「……うっせえ」
「あと、シグナルライト用の魔法石はどうすれば? ほら、僕が投げてしまったやつ、回収し忘れてしまったのですが」
「あー、あれか。クログには聞き忘れたが、あれは回収しなくてよかったはずだぞ、確か。一応安い魔法石を使っているらしいし、使う魔法の関係もあって実質使い捨てだと聞いたことがある。だから心配すんな」
「そうでしたか」
彼は、もう一度全てのものをショルダーバッグにしまい直し、蓋を閉じる。留め具を軽く叩いて蓋が閉じていることを再び確認した彼は、その場で一礼した。
「お世話に……、あっ、いえ、お元気で!」
「最後までお前らしいな」
「そうっすね」
二人の戦士は、相変わらずだな、と笑った。
「まぁ、頑張れよ!」
「はいっ!」
回れ右をした彼は、スレイピアへと続く右の道を進んで行った。それを見届けたダートとセロは、アプダスレアを目指して左の道へと入っていった。
間章 『別れ道』 終
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