第16話

 これは、翌日の昼頃、冒険者ギルドでのことである。


 冒険者ギルドの扉が、勢いよく蹴り開けられた。

 中にいた冒険者らは、扉の方を恐るおそる見た。しかし、その主を確認すると、何事も無かったかのように、直ぐに会話へと戻っていった。


 わざとらしく足音を立てながら中に入っていったその少年は、赤く腫れ上がった目で掲示板の方を睨みつける。彼とふと目が合った冒険者は、慌てて目を逸らしてから、人の多い方へと逃げ去っていった。

 壁沿いに、いつもの受付の方へと歩く。昨日蹴り飛ばしたはずの二つのゴミ箱は、いつものように階段へ続く通路との境目辺りに置かれていた。


「……気にいらねぇなぁっ!」


 ザールという名のその少年は、それを思いっ切り蹴り飛ばした。

 再び、ロビーは静かになる。蹴り飛ばされたゴミ箱が、カラン、と音を立てて転がると、また元の話し声が響いた。


「クソッ!」


 ザールは、壁を強く殴った。しかし、もうザールの方を向く人は誰もいない。

 気の立ったザールは、受付の方へと向かった。

「……エスト」


 受付のカウンター脇にいたクーが、ザールの方に寄り、声を掛ける。


「……エスト?」


 ザールは、拳をカウンターに打ちつけた。


「上位種の討伐依頼を!」


 ザールは、声を張り上げた。クーが、カウンターの上のザールの拳に手を重ねる。ザールはそれを振り払った。


「……エスト」


 ザールはクーを睨む。しかし、クーは何も言わず彼をただじっと見つめていた。

 それに耐えきれなくなったザールは、カウンターから身を乗り出し、受付の職員を睨みつけた。


「さっきから言ってるだろ、早く出せ!」


 ヒッ、と声を上げて、女性の職員が縮こまった。


「あのぅ……」


 右隣りの、いかにも新人風な女性職員が、片手を上げながら話に割り込んだ。


「高身長に派手な服、手首に付けた趣味の悪そうな腕輪……。ザールさんでよろしいですよね?」


 その職員は、ザールの返事を聞かずに話し出した。


「伝言がありまして。チビなポーターから、といえばわかる、と言っていましたが」


 その職員は、一呼吸置いてから話し出した。


「『あなたも、─────── 』」


 ザールの頰を、涙が伝う。カウンターに落ちた涙は、木目の間に吸い込まれずに留まろうとしていた。



1章 『対価』 終

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