第11話

「何をするっすか!」


 セロは、驚いて叫び声をあげる。そして、彼の方を睨むと、彼は息を切らしながら魔法銃を握っていた。その銃の銃身に刻まれた魔方陣は、炉で熱した鉄を叩いた後のような仄かに赤い光を放っていた。


「……おい、セロ。そこの茂みに入ってみろ」


 ダートが、パーティーを守るように盾を向けながら言った。


「えっ?」

「こっちは守っとくから、入れ」


 セロは、ダートの方へ顔だけ向ける。そして、冗談で言っているのではないことを悟ってから、諦めたように盾を構え直した。


「じゃあ、入るっすよ」


 セロは、盾を構えながら慎重に茂みに近づき、盾が茂みに接したところで少し立ち止まり様子を伺ってから、勢いよく茂みをかき分ける。その中に顔だけを突っ込んで安全を確認してから、セロはその中へと入っていった。


「ダートさん、これ!」


 セロは盾を投げ置き、慌手た様子で何かを残りの3人のいる方へと投げた。それは、頭部が撃ち抜かれたバーンウルフの死骸だった。


「……これだけのようだな」


 ダートは、盾を下ろしてから死骸を改め始めた。


「ちょっと待つっす、なんでそんな平然としているんすか!」

「まぁ、こういうことだな」


 ダートは、バーンウルフの頭をずらして、首の下の喉のあたりを指差した。そこには、まるで焼印を押したかのような丸い焦げ跡があった。


「バーンウルフは、炎を喉のあたりの魔法発生器官から出すんだ。だから、こいつが火を出そうとしている最中に殺すと、こんな風な跡が残ることがある。まぁ、こうなっちまうと値が下がっちまうから、猟師の中じゃ御法度だと思うがな。

 つまりだ、何らかの方法でアルザがバーンウルフに気がついて、それに向かって発砲した。悔しいが、俺らは反応が遅れた、というわけだ」


 ダートは、下に置いていた盾を持ちながら彼の方を向いた。


「んで、多分こいつは魔法の発生を感じ取れるんだろう、それもかなり微弱なものを。まぁ、昔組んだ魔導師のやつがそんなことが出来る、と言っていたのを聞いただけだし、そっちの方は俺も詳しいことは知らないがな。

 そもそも俺らの不注意とはいっても、戦闘経験の殆どない奴よりも発見や対応が遅れるほど俺らもクズじゃないし、少なくともそれくらいはできるようにお前を訓練したつもりだ。それと、アルザが走り込んでくるのと同じタイミングで、クログが大規模な魔法を使おうとしたのを感じた。

 アルザの同じタイミングで発動しようとしたところを考えるに、恐らくは防御魔法を展開しようとしていたのだろうな。つまり、だ」


 ダートは、頭を掻きながら断言した。


「俺らは死にかけていたんだ」


─────────────────



 他のバーンウルフを匂いで呼び寄せないために、死骸を一時的に彼のショルダーバッグにしまい込んだ彼らは、捜索を再開した。


「しかし、驚いたねぇ。この子があれくらいの魔法を知覚できるなんて」

「何の魔法かはわかりませんがね」


 彼は苦笑いしながら答えた。


「一応、一年くらい魔導師をやっていれば自然とできるようになると聞きましたが」

「それはかなり真面目に練習していた場合だよ。それに、駄目な人は何年やっても駄目だからねぇ」


 クログは、感心したように答えた。


「……なあ、アルザ。一応聞いてもいいか?」

「何でしょう?」


 彼は、顔も向けずにダートに返事をした。


「もし、戦力としてお前を数えたい、って言ったら怒るか?」


 彼は、魔導ランプを少し持ち上げながら、ダートの横顔を見上げた。ダートの目には、先程のような冷やかしの色はなかった。傍にいたセロも、不満めいた顔はしていなかった。


「前線で殴るの以外であれば」

「わかった。それと……なんだが、一応、お前の出来ることを確認してもいいか? どんな武器を持っていて、どんな戦い方をしたいか、とか」

「……わかりました」


 彼は、右側のホルスターから、魔法銃を引き抜いた。


「これがL-231で、僕の持っている2丁の魔法銃の中では最も重い銃です」

「それは、銃自体が、か?」

「それも多少はありますが、消費魔力や反動が『重い』銃、という方が正しいです。他の魔法銃と比べても、弾に込められる魔力や弾速が大きいので。

 撃ったことがないと分かりにくいかもしれませんが、実際に撃つと、腕からドスン、と何かが抜けたような感覚と共に、体全体が持っていかれるような強い反動を感じる筈です。それら全て含めて重い銃、というわけです。……ただ、弾の速さは普通の銃よりやや速い、というだけですけどね」


 そう言って、彼はL-231を右側のホルスターにしまいながら、反対側から、先程よりも銃身が一回り小さい魔法銃を取り出した。


「そして、こっちがL-154、いわゆる汎用型です」

「汎用型っすか?」


 突然、セロが素っ頓狂な声を上げた。


「いや、すまないっす、続けて欲しいっす」

「……別に構わないのですが、この銃のこと、ご存知ですか?」

「いやぁ、知り合いに魔法銃好きな奴がいて、色々教えてくれたんすよ。ただそいつが言うには、汎用型はあまり物が……」

「一番素直な銃なんですけどね、汎用型って」


 彼は溜め息をつきながら、L-154を左側のホルスターに戻した。


「なんか、気分を悪くさせたならすまないっす」

「いえ、よく言われることなので気にしてませんよ。感想なんて人それぞれですし。……それと使い分けとしては、基本的にはL-231、予備としてL-154、といった感じです」


「2丁両手撃ち、とかやらないんすか?ほら、バン、バーンって感じで」


 両手の指で銃を作って撃つふりをするセロを見て、彼はクスリ、と笑った。


「無理ですよ、左に持った方の銃の照準は合わせられませんし、それよりL-231の反動が強すぎて無理です」

「どういうことっすか?」

「元々反動を身体強化でねじ伏せるようにして撃っているので、それと他の銃を組み合わせて撃つのは魔力的にきついんですよ」

「おや、銃の魔法石を使っていたんじゃなかったのかい」


 クログが、驚いたように言った。


「ええ。銃の魔法石は撃つための魔法を扱うので限界ですし、他の魔法石を買う余裕はなかったので。それと、そんな銃なのでできれば両手で撃ちたいんです、精度的にも。

 ……あと、先程も言った通り、ブースト、という身体強化魔法と、ガード、という最低限の防御魔法は使えます、魔法石なしで」


 彼は一言も喋らずに聞いていたダートの方に再び顔を向けた。


「こんなんでよろしいですか?」

「まぁ、期待していたのとは少し違かったがな。要するに後ろから暴れ馬みたいな銃をブッ放す、ということだろ」

「……やや違う気もしますが」


 彼は子供っぽく頰を膨らましながらも、反論はしなかった。


「ああそれと、ありましたね、L-154の使用法。大抵の魔法銃には、スタンという相手を気絶させるための機能があるんですが、231だと強すぎて相手を殺してしまう危険があるんです。それで使い分けしてますね」

「恐ろしいっすね、その銃。……おおっとぉっ!」


 足元で、石同士がぶつかり、転がる音がするのと同時に、何かに躓いたセロが、慌ててバランスをとろうとふらついた。

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