第2話 白いワンピース
家から出て30分ほど歩くと
「はあぁ」
やっと着いたか。
悠は窓側の1番うしろにある自分の机に着くとそのまま座り込み一休みする。
「朝から私の隣に亡骸があるなんてまったく困ったものだわ」
声の主は腰まである黒髪と見ているだけで生気を吸われそうな紅い瞳が特徴の美少女だった。
少女は隣に座る俺を呆れたような顔で見ていた。
「朝から散々ないいようだな
朝から俺を亡骸扱いするのは隣の席の
菫さんは学年成績トップの副会長だ。菫さんに反論しようものなら論破されて終わってしまうし、菫さんのお父さんはこの学校のOBでありながら教育委員会会長ってこともあって先生すら頭があがらない存在となっている。
菫さんつよすぎ。
「あら、そうかしら?今後気を付けるようにするわ」
菫はわざとらしくびっくりしたような顔をしたあと手を口元において首を傾げた。
ああ、絶対思ってないよこの人。
「まあそんなことはどうでもいいのよ」
「どうでもよくな.....はい、どうでもいいです」
俺が最後まで言う前に菫さんに睨まれるとすかさず肯定した。
いや、その目で睨まれると怖い。
「あそこにあなたのお友達らしき人が来ているわよ」
菫はそう言って教室の入口を指さした。
俺はその指先の延長先に目を向けると入口で
何やってんだよあいつ。
「菫さん教えてくれてありがと。んじゃ」
「はいはい。そんなことくらいでお礼なんていらないから早く行って来てちょうだい」
俺は軽く菫さんにお礼を言うとそのまま健太の方へと向かった。
こういう時いつも教えてくれるから菫さんは毒舌なだけで悪い人ではないと思っている。少なくとも噂よりは。
「よ!悠、元気か?」
俺が来るなり元気な奴だな。ほんと。
「普通だよ。まあ少なくともお前よりは元気じゃないな」
健太はいつもどうりのハイテンションで少し疲れる。
健太は中学からの仲で小学校からやっていた野球を今でも続けている。1年の頃からレギュラー入りで、今では我が校のエースピッチャーをやってる。
誇らしい限りだよ。ほんと。
健太に言われて自分の体調を確認してみる。
朝、
菫さんの毒舌はあの人なりの挨拶だと思ってるからあれで精神的なダメージを負うことはない。
つまり可もなく不可もなくというやつだ。
「悠、少し話したいことがあるから昼飯の時いつもの場所で待ってる」
いつになく真剣な顔をする健太に少し驚く。
「わかったからそんな顔すんなよ」
健太のその顔を見ていい話でないのはだいたい予想がついた。まあ話の内容もだいたいは予想がつく。こいつにそんな顔されるとこっちの調子がくるう。
「そうだな!じゃあ昼な」
「はいはい」
俺はいつもどうりの素っ気ない返事で返した。
「あなた達ほんとに仲がいいのね。まさかあなた達ボーイズラブだったりするのかしら?」
席に着くなり菫さんが意味の分からない事を言い出した。
「んなまさか」
俺がそう言うと菫さんはそれ以上深くついては来なかった。いつもならおもしろがって追求してくるところのはずなのに。俺はそれが少し気になった。菫さんの瞳が雨空のようにどこか曇っていたことに悠は気づけないでいた。
「朝のショートホームルーム始めるぞー」
やる気のないようにそう言って教室に入って来たのは担任の
橋本先生はtheハゲってかんじのハゲでスタンダードタイプだ。俺が聞いた1番最悪なあだ名は「
橋本先生はそんなことを生徒に言われてるなんて思いもせずに朝の首席確認を始めた。
「
「はい」
「
「はーい」
俺は名前が呼ばれるまで暇だったため窓から見える校門を眺めていた。
意味があるわけではない。ただ校門の前を通る人たちを「ボーッ」と眺めるただそれだけだ。
校門の前を歩く人をただただ目で追うそれだけの事だ。その時までは.....
悠の目にはある少女が目にとまった。それは白いワンピースを着た少女だった。
俺はなぜかその少女だけに目がいき自然と校門の前を歩く彼女を目で追いかけていた。なぜだか彼女を見ていると自分の胸のあたりがこうくるしいような気がした。
目で追いかけているうちに彼女が「バッ」とこちらを向いた。この距離で2人は目があったのだ。互いの顔もよく見えないほど離れたこの距離で。
俺はそのまま動けなかった。
「.....さん」
「立.....さん」
「立木さん!」
「えっ」
俺は大声で名前を呼ばれやっと気が付いた。隣を見ると菫さんがどこか心配したような目でこちらをうかがっていた。
クラスの目も自然と俺に集中していた。
「立木。朝からボーッとしているなんて少したるんでるんじゃないか。2年の4月も終わろうとしているんだからな」
橋本先生はこちらを見ながらそう言ったが俺を見ているわけではないようだった。おそらく俺以外の人も当てはまっているのだろう。
「あ、すみません」
橋本先生は「しっかりしろ」とだけ言って首席確認を再開した。
「それで窓の外には何が見えたのかしら?」
菫さんが頬杖をしてこちらを見ていた。
からかっているようにも見えたが菫さんなりの心配の仕方なのではないかと思った。だがそれは俺の単なる思いちがいにすぎないのかもしれない。
「いやべつに何もないよ」
「そうなの。つまらないわね。でも先生が言っていたとおりもっとしっかりしたほうがいいと思うわ」
菫さんはそれだけ言う朝のショートホームルーム中にもかかわらず机から本を1冊取り読み始めた。
俺はまた校門の方を見たがさっきまでいた白いワンピースの彼女はどこかに行っていなくなってしまったようだった。
彼女は一体何者だったのだろうか?
あら、次のページで最後のようね。菫はそのページで最後に言った主人公のセリフをそのまま隣に座る悠を見て言った。
「あなたはなぜそんなに変わってしまったの?」
それは独り言のように呟かれ悠の耳には届かなかった。
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