第119話:その結果は
「さあ、みなさん。お待ちかねの、文化祭の表彰です」
全校朝礼が始まってから、先生方のお話や、委員会からのお知らせなどの間。みんな静かに耳を傾けていた。
でもここで、わあっと歓声が湧く。
来場したお客さんが投票してくれた結果で、順位が決まるのだ。
一位になれば、食堂のサービス券なんかがもらえて、それも嬉しい。でもなにより、みんなでやったことに、順位という形が付くのが達成感としてこの上ない。
「えー。まず、アイデア賞から。アイデア賞は三年──」
単純な順位以外も、あるらしい。一年生の私たちは知らなかったけれど、そんな物は要らないなんて誰も言うはずがない。
他に最高売り上げ賞と、ベストピーアール賞があった。
「かなり評判良かったよね」
「注目の的だったね」
ピーアールのほうは、クラスのみんながひそひそ話して期待した。けれども、発表されたのは別のクラスだった。
音羽くんの、渾身の発案だったのに。どうして選ばれないんだろう。
悔しいけれど、他のクラスも頑張っていたのだろう。仕方がない。
選ばれた三つのクラスは、代表者が賞状と記念品を受け取った。
「次は、優秀賞を二クラスです。まず──」
壇上に居るのは、実行委員会の副委員長さんだ。全校生徒が、自分たちを呼んでくれと視線を向ける。
優秀賞が、ポイント数の上位。いわゆる二位と三位なので、その熱はより増したと思う。とてつもないプレッシャーだろうに、平然としているのがすごい。
もちろん私たちのクラスも、私も期待した。期待というか、願いだろうか。
みんな頑張ったよ。一つひとつ、みんなで決めて、みんなで作り上げて。難しかったり、間違えたり、みんなで悩んだよ。
他のクラスにはないことだって、乗り越えた。それを副委員長さんの顔を見ながら思うのは、イヤミになってしまうかな。でもそれも、今は嬉しい思い出になったよ。
だから……!
「二年──F組!」
学年が聞こえた時点で、三分の二の生徒は「ああ……」とため息を漏らす。でもすぐに、次があるさと気を取り直す。
二年F組の人たちは、前後や隣同士で向き合って、歓声を上げて喜び合う。
それが落ち着くと、クラス全員が演壇の下に集まって表彰を受ける。もちろんまたそこでも、歓喜した。
「次は、ランキングで言うと、二位になります。三年──D組!」
また三分の二の生徒が嘆いて、受賞したクラスは大歓声だ。
やっぱり一回でも二回でも経験のあるほうが、有利なのだろう。私でさえ、他のクラスの催しを見て「次はこういうことをやれば面白いかも」なんて思いついたくらいだ。
まだ賞はもう一つ残っているけれど、難しいのかなと、諦めの気持ちが膨らんでいく。
「最後に最優秀賞です。獲得したポイントは、他のクラスを大きく引き離していました」
お願い。私たちを選んでください。
そんなことを言ったって、集計はもう済んでいる。でもそういうことじゃない。
「今年度の最優秀賞は……」
副委員長さんはそこで大きく息を吸って、ゆっくりと全校生徒を見回した。
演出。それは分かるけれど、早く言ってほしい。いやドキドキする時間が楽しみで、ずっと言わないでほしいような。
でも早く──。
「一年C組! おめでとうございます!」
一年? 一年生なの?
誰もがそう思ったのだろう。副委員長さんが絶叫するような声を発したあと、講堂の中は静まり返った。
言い間違いや聞き間違いではないのかと、その沈黙が疑う気持ちさえ呼び起こそうとした時。一人が立ち上がって拍手した。
それは三島先生。教員席から、生徒の座る席に向けて、たった一人で。大きな音で手を打ち鳴らした。
「やった! やった、うちらのクラスだよ!!」
それに答えるように立ち上がったのは、祥子ちゃん。立ち上がって、振り返って、ぴょんぴょんと跳ねて。みんな喜べと、煽るみたいに。
そうだ。一年C組は私たちのクラスだ。
「よっしゃー!」
「やったね!」
早瀬くんが叫んで、クラス委員の女の子もはしゃぐ。
音羽くんは額の汗でも拭うようにして、椅子からずり落ちるような格好で、大きく息を吐いているみたい。驚きとほっとしたのと、混ざりあったのだろうか。
「あーちゃん! うちらだよ!」
祥子ちゃんは、少し離れていた純水ちゃんのところまで行って、両手を握った。
純水ちゃんは驚いたまま、ちょっと呆けたみたいになっていて、腕を揺すられる度にがくんがくんと頭も揺れていた。
でも最後には、「あたしたちだよね!」と、祥子ちゃんを揺すり返していた。
「ほら、コトちゃんも行こう」
「う、うん」
私もそんなみんなの様子が嬉しかったけれど、まだ驚きが強く残っていた。それで座ったままだったのを、クラス委員の女の子が連れ出してくれる。
「では代表者。壇上へどうぞ」
そう言われて、集まったみんなで顔を見合わせた。受賞した他のクラスは、誰が代表者になったのだろう。クラス委員だろうか。
「野々宮。頼むよ」
すぐにそう言ったのは、音羽くんだ。早瀬くんも「そうだな」と続いて、みんなが純水ちゃんを壇上へと送り出した。
「え、あたしでいいの?」
純水ちゃんは遠慮しながらも賞状を受け取って、壇上でそれを高く掲げる。全校生徒から、大きな拍手が巻き起こった。
「じゃあ胴上げだね!」
言ったのは誰だっただろう。祥子ちゃんだった気がするけれど、たしかではない。
でも誰もそれを否と言うはずもなく、純水ちゃんは高く持ち上げられる。
「ちょっ、やめっ、恥ずっ」
二回、三回と繰り返されて、急にそうなったからか、純水ちゃんは慌てている。
「ぱっ、パンツ! 見えるから!」
たぶん六回くらいだろうか。純水ちゃんがそう言って、みんな「それは気付かなかった」と降ろした。
でも降ろされた純水ちゃんは、すごく嬉しそう。
スカートでなければ、もっとやってもらえば良かったね。
そう思って小さく拍手をしていると、純水ちゃんの目が光ったように見えた。
「次はコトだね!」
「えっ──」
パンツが見えるなんて言われると、男の子は参加しづらいようだった。でも女の子だけでも、私一人を持ち上げるのは可能らしい。
「カントク!」
「カントク!」
みんなすぐに力尽きて、三回だけだった。でも高い天井が、ふわっと近付いてくる光景は、忘れることが出来ないかもしれない。
私はこのクラスのみんなと、繋がれているんだと思えた。
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