まる。

 図形の丸。僕は丸が好きだ。角がひとつもないのはいかにも平和な感じ。その完全で、調和的で、絶対な感じが好きだ。


 僕は丸が好きだ。印刷された丸が美しいのはもとより、人間が手書きで作った歪な丸もそれはそれで趣きがある。印刷された丸が天才だとしたら、人間が書いた丸は天才になろうと足掻いて、もがいて、それでもなお届かない秀才って感じ。見ていて愛おしい。


 僕は丸が好きだ。小説を読むと物語よりも句点の美しさに感動するし、高校の数学は単位円を眺めているだけで1コマ終わっていたことが何度もある。好き、と言うより愛してると言った方が正しいかもしれない。僕は丸を愛してやまない。


 僕は丸を愛している。中学3年生の時、社会を担当していた先生が答案用紙に丸つけする、その丸が綺麗だった。美しかった。だから、それまで興味のなかった社会を必死で勉強した。丸を1つでも多くみたいから、なんて理由で中学のテストで満点を取ったのは全国を探しても僕くらいじゃなかろうか。そんな経験が、今の僕を形作っている。


「せんせー、この問題、わかんなーい。教えてー」


「いいよ。これはね--」


「あーっ! わかったっ」


「よく分かったね。ほら、貸してみて」


「んー?」


「はい、どうぞ」


「わーいっ! まるだーっ!」

 

 僕は丸が好きだ。僕が付ける丸が好きだ。

 この丸ひとつで、僕の大好きな生徒達を笑顔に出来るから。

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