てのひら
「てのひらってあるじゃない」
ある休日の昼下がり。大学の図書館で課題にいそしむのは、見るかぎり僕ときみのふたりきり。そんな中、隣に座るきみは唐突にそんな話をし始めた。
「うん。てのひらがどうしたの」
「これって表と裏、どっちだと思う? 急に気になっちゃって」
そう言って、てのひらを伸ばすきみ。てのひらが表か裏か。言われてみれば考えたこともなかった。甲とてのひら、どっちが表でも困らないし。でもまあ、ちょうど勉強にも飽きてきたところだ。声をかけてきたのは息抜きをしたいという意思表示にも思える。根をつめて勉強するのも効率悪いだろうし、まだ時間には余裕がある。ちょっと考えてみるとするか。
……やっぱり、てのひらが表だろうか。よく使うし。手を表にして、と言われたらてのひらを見せる気がする。手相や指紋もてのひらにあるし、手を振る時に人に見せるのもてのひら側だ。カードでもなんでも、表に特徴がある気がする。
「でも、足の甲の反対が足の裏でしょう。そう考えると、手の甲の反対のてのひらが裏って気もするの」
たしかに言われてみれば。甲を基準に表裏を決めるというのは理にかなっているかもしれない。そもそも表とはいったいなんだろう。以前どこかで、硬貨は模様が入っている側が表で年号の側が裏と聞いた。だが、普段硬貨を使う時、よく見るのは模様の反対側に思う。
「うーん、僕も分かんないや」
「じゃあ、勝手に決めちゃうっていうのは?」
「それならこうしよう。手を繋いだ時、きみと繋がってる方が表」
きみは笑顔で手を差し出してきた。もうお互いに課題のことは気にしない。暖かい日差しが僕らふたりを照らしていた。
ちなみに気になって後で調べた。てのひらは裏だった。
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