第5話

30分後、部屋は見違える程きれいになった。

 プロと素人、その差を直に感じた。

「これにて任務完了。さて、報酬を受け取ろうか」

「お、お疲れさまでした」

 私は一万円札を五十嵐さんに渡した。五十嵐さんはお札を指でぱしっとはじくと、それをポケットに突っ込んだ。

「この部屋をこのまま保てるかどうかは、貴様次第だ。しっかり励めよ」

 そう言って、五十嵐さんは帰っていった。

嵐のような人だった。

 

 物がなくなり、きれいになった部屋の中央で、私は倒れこんだ。

 この部屋、こんなに広かったのか。

 無駄な物に囲まれて、想い出に縛られて生きてきたのだと思い知った。

なんだか、頭の中がすっきりした気分だ。

 やはり、革命とは一人でできないなと思った。別の視点、別の価値観が必要だと痛感した。

 


 翌日、郵便物を確認すると、一通の封書があった。

 送り主は『最強の掃除屋 五十嵐』とあった。開けてみると、次回20%オフのクーポン券が入っていた。裏面に何か書かれている。現代には珍しい、手書きの文章。


『今回は、最強の掃除屋 五十嵐をご利用いただき、誠に有難うございます。掃除の仕上がりにはご満足していただけたかと思います。今後、部屋を清潔に保つ秘訣をお教えします。①物は使ったら元に戻す

②何か買ったら何か捨てる

➂一か月間使用されていない書類は破棄

④毎朝10分間、必ず掃除をする時間を設ける(場所はどこでもいい)

以上を守れば、貴殿の部屋はかつての惨状に戻ることはありません。

最後に、このクーポン券が使われないことを強く願う。五十嵐』

 

 彼の書き言葉は、非常に丁寧だった。口調と文調を変えるタイプなのかもしれない。

 

 しかし、勉強になった。手紙の言葉を胸に刻もう。

 だが、忘れないように壁に貼り付けよう。そして、毎日自身に言い聞かせよう。

 彼の力を借りることは今後ないように、努力を続けよう。


 とりあえずは、朝の掃除をしよう。

 私はトイレへ向かった。汚れも臭いも何もない。ただ、便器があるだけ。

異臭の代わりに、清潔感が漂う。


 最強の掃除屋、五十嵐さん。

もし、依頼以外で機会があれば――

「また会いたいものだな」

 便器を磨きながら、そう思った。


 

第一部 室内革命 終幕


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今泉さんの小さな革命日誌 虹色 @nococox

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