第3話
戦いは熾烈を極めた。
飛び散る汚れ、積み重なるゴミ袋、舞い上がる埃。
近場のホームセンターで、『お掃除セット』なるものを購入し、装備は整えたつもりだったが甘かった。
手袋だけでは、顔は防御できないし。無論、臭いも貫通だ。
雑巾だけでは、こべりついた床の『何か』は除去できない。
全ての汚れが重曹でとれるわけではない。
自身の無知と無力と無計画は恥じた。
私は掃除一つできないのか。何が革命か。いきなり失敗ではないか。
「――革命は、一人で行うものではない」
どこからか、声が聞こえた。異臭と長時間戦い続けて、脳が狂ったのかもしれない。
だが、この幻聴の言葉は、どこか胸に響いた。脳に響いてきたのだから、当然なのかもしれないが。
『革命は一人で行うものではない』、確かに。過去、歴史上起こった革命で、最初から最後まで一人で終わったものなど聞いたことがない。
指導者がいて、協力者がいる。そして、それに従う賛同者がいる。
なるほど、今私に足りないのは協力者か。だが、私には友人がいない。掃除を一緒にしてくれるような友情を誰ともはぐくんでこなかった。
――いや、そもそもなぜ、掃除をお願いする相手が友人なのだ。掃除をお願いするなら、『掃除屋』に頼むべきだろう。この戦場、素人が一人二人増えたところで攻略できないのは明らか。
必要なのは、絶対的な『力』。
掃除を知り尽くしたプロの力が必要なのだ。
私は、スマホで『掃除』、『プロ』、『最強』で検索をかけた。
――洗濯や掃除機のサイトがたくさん表示された。
いや、今求めているのはそこじゃないから!
心中で突っ込みを入れつつ、画面をスクロールしていく。すると、目を引くリンクが現れる。
『最強の掃除屋 五十嵐』
漫画かな、と思ったがお掃除サービス会社だった。名前のインパクトと異なり、ホームページはしっかりしていて、料金体系等、丁寧に記されていた。1時間2500円を基準に料金設定されていたが、一つだけ料金が大きく異なるコースがあった。
30min 最強お掃除コース 1万円
あなたのお部屋をプロがきれいさっぱりお掃除。入居前の状態に戻すことも可能(要写真)
怪しさ満載ではあった。
30minと時間は短いのに、1万円という攻めた価格設定。
だが、私は自分の直感に任せることにした。
「はい、お電話ありがとうございます。掃除屋 五十嵐でございます」
「30min 最強お掃除コースを御願いします」
30min後、その選択をしたことを、私は後悔することになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます