残業進捗と常識
先日、社内案件の手伝いをしていたところ、思いの外炎上していたため、連日九時過ぎまで仕事をする羽目になった。
やることはそんなに難しくもないのだが、量が多すぎるのと、確認作業の手順が複雑なために時間を食ってしまうという、大変に面倒なものだった。
メンバーの中には新人も複数名いたのだが、こちらはまだ仕事に慣れていないので作業のスピードが遅い。しかもどういうわけだか、前日までの進捗を正確に報告しなかったので土壇場で作業量が増した。
ミスや遅れは的確に報告しろと言っただろうに。報告というのは皆の作業を止めないためにあるのであって、自己アピールのためではないのだが、どうも勘違いしている気がする。
九時頃にプロジェクトの責任者二人が「一回話そう」と私を会議室に召喚した。既にこのプロジェクト以外の社員は帰っている。
因みに私は責任者ではないが、圧倒的人手不足のためにサブリーダーみたいな立ち位置になっている。
「進捗報告して」
「新人たちは全体の90パーセントまで。私は彼らの取りこぼしを回収しながらなので、本来の目標には30パーセント足らない状態です」
「あとどのくらいで終わる?」
「私は今日の分は残り二時間くらいですね」
「新人のは頑張れば今日中に100パーセントになるの?」
「いや、X君(三年目)の作業が終わらないと駄目ですね」
そう言いながら頭の中で全員の作業量を見積もる。九時を超えると何となく頭が冴えてくる。帰りたい気持ちが勝るのかもしれない。
「ただ、それが終われば新人Bに明日朝イチにやらせて一時間ってとこなんで、午前中にはフィックスします」
「淡島さんの作業的には、それで平気?」
「並行で進められるから、最悪はもう一台パソコン使ってやりますよ」
責任者はそれを聞いて軽く吹いた。
「頼もしいねー。じゃあ新人帰す?」
確かに新人たちは疲れきっている。あれで仕事を続けても、良いことなんてない。
「いいんじゃないですか?」
「可哀想だよなー。新人なのに残業なんて。淡島さんと違って慣れてないし」
「そうそう、淡島さんは今から本番だろうけど」
何だそれ。人が残業大好きみたいに。失礼な人達だ。
此処でふと疑問が生じた。「新人なのに残業が可哀想」?
嫌な予感がして、疑問をそのまま口に出す。
「………新人って残業しないんですか?」
「させない会社が多いと思うよ。しても年間で数時間でしょ」
今のご時世はそうなのか。それとも基本はこうなのか。
新人の時に普通に100時間残業してた私はなんなんだ。そりゃ残業も慣れる。手軽に残業する。
とんでもないところで自分の常識がズレていることに気付かされたが、何はともあれ新人を帰すために席を立つ。
「で、そろそろ十時だけどあと何時間かかるんだっけ?」
「あと二時間です。残りは明日やります」
「明日って、翌営業日のこと?」
「んなわけないでしょ、十二時越えたら明日ですよ」
こういう仕事のやり方に慣れたのは、二年目の頃だったなぁ、と遠い目をしながら会議室を出る。まだ朝までは長い。
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