見様見真似1

 手を焼かせる仕事というのはあるもので、数年前にほんの数カ月関わっていただけなのに、トラブル対応に必ず巻き込まれたりする。もっと長く関わっていた人たちは、今やもう社内に跡形もないから仕方がない。仕方がないけど、私だってやりたくない。

 手を焼く案件(以下A病院)は、ここ数ヶ月というもの、元気にエラーを吐き出したり、爽やかにログを一日10GB出力したり、かと思えば朝焼けと共にサーバの電源を落としたりと、それはそれはご機嫌だった。担当者は頭を抱えていたが、私は見て見ぬふりをした。

 しかし、煙草を吸いに行こうとした時に遂に捕まってしまった。


「先日のA病院のトラブル対応、ありがとうございました」


 沈んだ声でお礼を言われても全く嬉しくない。

 仕様ミスにより通信電文が送れなくなり、挙句の果てにアプリケーションが落ちた。仕方がないので、救出することが出来た電文だけを送付したのが一週間前のことである。


「でもね、どういうわけか送信ファイルに重複があって」

「へぇ、そうですか」

「それを消すためのファイルを作る必要があるんだ」


 要するにゴミデータが大量に発行されてしまったので、それを消すためのデータが必要だということらしい。ゲームで例えるなら、キノコを食って大きくなった配管工に更に大量のキノコが送りつけられ、でもそれ以上大きくなれないから無駄なキノコを消しましょうというわけだ。


「ファイルを作るためのデータは受領したんだけど、どうしたら良いと思う?」


 捨てればいいんじゃないの、と喉元まで出た。しかし相手はこちらを見ながら半笑いである。嫌な予感がする。


「データはCSVなんだ。これをどうにかして送信用のXMLファイルにしたいんだよね。方法がないか調べてくれない?」

「調べるって?」

「ネットとかで、変換ツールが無料で取得出来たりするでしょ。そういうの探してくれないかな」


 うわ、面倒くさい。

 隠しもせずに表情に浮かべると、その人は私を拝み倒し始めた。

 いいのか、そんなんで。私なんかに媚びたって何一ついいことなんかないぞ。そのあたりの野良猫に「撫でさせて下さい」と懇願するほうが、まだ生産的というものじゃないだろうか。

 しかし年齢が上の人にそうされると、どうにも断りにくいのが社畜である。「調べるだけ調べてみる」と言ってそのデータを受け取った。


<!-- わからない方のために一応説明 -->

 CSVファイルとはいくつかの項目を「,(カンマ)」で区切ったテキストファイルで、Excelでも開く。XMLファイルとはHTMLによく似たデータファイルで、ブラウザでも開く。

 んなこと言われてもわかんねーよ、って方は兎に角、二つとも形状が全く違うファイルだと思ってくれれば良い。


 自席に戻って、まずはデータを確認する。ファイルをダブルクリックして開いてみると、途端にノートパソコンがフリーズした。なんと五十万行もデータが入っていた。そりゃ止まる。大体のパソコンで止まる。

 この時点で、CSVファイルのカンマを目安に置換を行い、XMLファイルに加工するのは諦めた。五十万行も置換していたら、私のノートパソコンが涅槃してしまう。


 次にネットで、CSVをXMLファイルに変換してくれるソフトまたはサービスがないか調べてみた。しかし残念なことに私が欲しい機能を携えたものはヒットしなかった。正確に言えば一つ、限りなく求めていた機能に近いものがあったが、推奨環境が古すぎて動かなかった。


 途方に暮れながらCSVファイルを見つめる。

 中には色々なデータがカンマ区切りで格納されていて、一つのデータごとに改行されている。


 このデータとデータの間にXMLのタグが入ればいいんだよなぁ。タグで各項目を挟んで、XMLファイルにして、どっかのディレクトリに出力出来ればいいのになぁ。で、それを一行ずつ処理していくことを繰り返して、最後何もデータがなくなったら処理を終了してくれればいい。そういうことが出来れば楽なのに。


 ……あれ? 自分で作れるんじゃない、これ?

 今のアルゴリズムでいける気がする。多分。きっと。恐らく。


 というわけで、よせばいいのに非プログラマ社畜は、プログラミングに手をだすことにした。(次回に続く)

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