【閑話】身だしなみ

 生まれてこの方、ネイルやエクステの類に興味がなく、ブランド品もわからない。爪は伸びたら伸びたとこだけ切り落とすから、下手したら営業の男性陣の方が綺麗なんじゃないかと思う。


 先日、ある用事でジェルネイルをしたら、妹に「わー、いいな。指だけは綺麗だもんね」と、ほぼ全身をディスられた。


 髪だってボサボサで、櫛は通すがトリートメントはしない。それをせめてもと可愛いデザインの髪飾りで誤魔化す。


 毎日使っている黒いビジネスバッグは男性用で、目印代わりにぶら下げた猫の小物入れは擦れて劣化してパンダみたいになっている。

女性らしさが欲しいなぁ、と思いながらタバコ吸って立ち飲み屋にいるから、もうダメである。


 一応化粧だけはしているのだが、ある時上司と話していたら衝撃的なことを言われた。


「お前も休日とかは化粧するの?」

「………今もしてますけど」

「どこが?」


 朝早くに起きて、日焼け止めに乳液、下地にファンデ、フェイスパウダー。アイブロウ、アイラッシュ、アイライナーまで施した顔のどこに化粧っ気がないと!?

 いや、口紅はつけてないけど。それが駄目なのだろうか。

 だが、煙草のフィルタに口紅がつくのは、ちょっと抵抗があるのだ。何がと聞かれると困るけど。


 最近、袖口にリボンがついたカットソーを買った。リボンは縫い付けているタイプではなく、自分で結ぶやつだった。

 私はどうもこれが苦手らしい。

 何日かに一度の周期で着るのだが、先輩や後輩に呼び止められては、リボンを結び直される。

 五回を超えたあたりから、先輩なんかは諦めたように黙って結び直すようになった。


「何でその年で、蝶結びして縦になっちゃうの」

「知りません」


 私だってちゃんと蝶結びしたい。だがどういうわけか、何度やっても縦になる。

 昔、入院しているクラスメイトに皆で千羽鶴を折った時に、担任に殴られそうな勢いで怒られたことを思い出す。あまりの汚い折鶴に、先生は私がふざけていると思い込んで怒鳴りつけたのだ。

 私だって理屈はわかる。そこまで馬鹿じゃない。だが不器用というのはどうしようもないのである。


 今日も先輩は仕方なさそうにリボンを結び直しながら呟いた。


「仕事はまだ出来るのにねぇ……。化粧とか髪型とかこういうのは全部ダメだよね」


 キーボードを叩くのに器用も不器用もないから、それだけが救いだ。

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