最低限の食事
またも食事の話。
グルメな方でもないし、寧ろ一日一食でもどうにかなる低燃費ぶりを発揮している。それでも栄養が必要な時は食べる。これは体調管理の観念からしても当然のことである。社会人たるもの、赤子のように上手にミルクが飲めないからと食事を放棄して泣き叫ぶようではいけない。
大勢で仕事をしていると、数人ずつで食事に行くことが多い。ちょっと段取りが悪いと、最後のグループは午後二時過ぎに食事に行く羽目になる。
この前、気付いたら二時を過ぎていた。腹は減った。でも煙草も吸いたい。なのに予定表には「三時から接続テスト」と書かれている。
残された他のメンバと死にそうな顔をしながら予定表を確認し、そして一人が大きな溜息をついた。
「コンビニで飯食って煙草吸って戻ってこよう」
イエッサー、なんて元気よく返事する代わりに同じような溜息をついておいた。
車に乗らなければ最寄りのコンビニにも行けないような場所で、他に何が望めよう。
だがどんな形であれ、我々に必要なのは気分転換である。太陽の差し込まない場所にいると、俄然気分が塞ぎこむ。ちょっとは別の空気とニコチンでも摂取したほうが、後の仕事も効率的に出来るというものだ。
コンビニに着くと、おにぎりと野菜スティックを購入した。せめてもの健康志向である。
缶コーヒーも買って、駐車場に停めたままの車の中に戻る。私より先に戻っていた人は助手席で惣菜パンを貪っていた。お供が野菜ジュースなのは、私と同じような理由だろう。
おにぎりを食べながら、ぼんやりと作業のことを考える。米を口に入れ、情報を頭の中に入れ、米を口に入れ、情報を頭の中に、米、情報、米、米、米、胡瓜。
食べ終わると、それらをビニール袋にまとめて車外へ出た。
ゴミ箱に放り込んだ後、煙草を手に灰皿の方へ向かう。なんで駐車場なんかで昼飯食ってるんだろう、とか思ったら負けだ。いや、何に負けるのかは知らないが、きっと勝ちはしない。勝利の女神はきっとお休み中だ。
灰皿のところで車を運転してきた人が、煙草の煙をゆらゆらと吐き出していた。目が死んでいる。気持ちは察する。
「もっと落ち着いて飯が食える仕事がしたい」
ボソリと呟かれた言葉に同意を示し、私は煙草に火を点けた。
いくら車の快適度が十年前より格段に進化したとはいえ、広々スペースを売りにしたとは言え、食事をする場所ではないのである。珈琲でも片手にドライブするぐらいなら構わないが、鮭おにぎりを食べる場所じゃない。
「あれ、まだ飯食ってないですよね? 何買ったんですか?」
「蕎麦」
運転席で蕎麦を食うのは難しいのではないかと思う。
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