働きたくない君へ

マムルーク

天使の導き

 働きたくない。

 俺は一人暮らし用の部屋で寝転び、そんなことを考えていた。

 俺の名前は幡羅金井(はたらかない)。来月から新入社員として働く予定だ。

 内定をゲットした時はとても嬉しく、希望に満ちていた。

 しかし、入社が近づくにつれどんどん気分は暗くなっていった。

 内定先の悪い情報を見てしまい、調べれば調べるほど、悪い情報を知ってしまった。

 ああ、働きたくない。学生時代のように好きな時に起きて、好きなアニメやゲームをして、誰にも縛られず、自由に生きていきたい。

 俺はずっと学生のままでいたい……

 だが、そんなことは許されない。ああ、神か天使でもいたら、この状況から救ってくれないかな。

「呼んだか?」

 突然、後ろから声がした。なんだ?

 振り向くとそこには、翼が生えた銀色の髪をしたとても美しい少女が立っていた。

「うわ! なんだお前は?」

 すると、少女は不機嫌そうな顔をした。

「お前が私を呼んだんだろ。神か天使でもいたら、この状況から救ってくれと。だから私が来たんだ」

「えっと、それじゃ天使か?」

「いかにも。私は超ウルトラ天才美少女天使のエリアルという。よろしくな。お前の名前は?」

 超ウルトラ天才美少女天使ってこいつ、自分でいっちゃうのか……

「えっと、幡羅金井といいます……それで、本当に働かないで暮らしていけるのか?」

 すると、エリアルは得意げな顔をした。

「もちもちのろんだ。お前、今貯金、いくら持っている?」

「えっと、確か三十万くらいかな」

 金額を聞くと、ニヤリとエリアルは笑った。

「私にお金をあずけろ。これを十倍、いや二十倍、いや百倍にして返してやろう」

 はぁ? 界王拳か? 胡散臭いな。こいつに任せて大丈夫なのか?

「一応聞いておくが、金を渡したらトンズラするわけじゃないよな?」

「もちのロンギヌスの槍だ。私を信じろ。いや、私を信じるお前を信じろ」

 こいつの口調、聞いてるとなんかイライラしてくんな。

「分かった。とりあえず、お前に五万くらい渡す。これで増やせるかどうか見させてもらうぞ」

「ああ!」


 俺はATMに行き、五万円を下ろした。家の外に出た際、エリアルは翼を引っ込め見事に人間に擬態した。

「それで、どうやってこれを増やすんだ?」

「まぁ、ついてこい」

 エリアルが向かったのはパチンコ店だった。

「え……まさか、これで元手を増やそうっていうのか?」

「その通り!」

 エリアルはドヤ顔で言った。どの世界にパチンコをする天使がいるんだ。

「安心しろ。私は賭け事には滅法強い。どの台が当たるか、どのタイミングで大当たりがでるかセブンスセンスで感じることができる」

 そう言い、パチンコに座った。しかし、セブンスセンスってなんだ? 第七感? 第六飛ばしてますよ。

 選んだのはCRキャプテン翼だった。

「パチンコは友達だぁ!!!」

 エリアルはパチンコを始めた。

 そして――見事に五万すった。

「いやぁ、悪い。今日調子悪いわ」

「てめぇ! ふざけんなゴラァ!」

 俺はマジギレした。こんなにキレたのはかつてバイトで店長が勝手にシフトを入れてきた時以来である。

「まぁ、落ち着きなさんな」

「あ?」 

 すると、エリアルは目を閉じた。

「リセット!」

 そう唱えるといつの間にか俺は自分の部屋にいた。

「あれ? どうなってるんだ?」

「驚いたか? リセット。時間を巻き戻す力だ。お金は元に戻っている」

「まじか……ちょっと確認してくる!」

 俺はさっそくATMに行き、残高照会をした。確かにお金はおろす前の金額に戻っていた。

 家に戻ると、腕を汲み、どうだ! と言わんばかりにエリアルが待っていた。

「どうだ! 私はすごいだろう?」

「まぁ……プラマイゼロだけどな」

「細かいことは気にするな。次行くぞ」

「まだ、ギャンブルするのか!?」

 こいつ、絶対ギャンブル弱いだろう。

「当然だ。金を増やすにはギャンブルしかない。狂気の沙汰ほど面白いってな?」

 言われるがまま、俺はエリアルについていった。


 到着したのは競馬場だった。

「今度は競馬か……」

 エリアルは俺の言葉に気にせず、馬の名前の一覧表を眺めた。

「このエンジェルっていう名前の馬、一位を取るぞ」

「お前、絶対に名前だけで選んだよな」

 すると、エリアルは手を差し出した。

「なんだ?」

「早く金を渡せ」

 俺はしぶしぶさっき下ろしてきた十万円を渡した。


 そして、レースが始まった。

 なんと、エンジェルはぶっちぎりで一位を獲得した。

 下から。

「あれれ〜? 種族値は高いと踏んでいたんだが。努力値が足りなかったんだな。うん」

 エリアルは自分一人で勝手に納得したようだ。

「おまえな……」

「リセット!」

 再び自分の部屋へと戻った。


「エリアルさんよ、さっきから全然勝てないんだが?」

「なら、自分でギャンブルをしてみればいい。ビットコインなんてのはどうだ?」

 ビットコインか。確か、大学の同期でも何人かやっている人がいた。

 俺はネットでビットコインのことを調べ、三十万つぎ込み、アルトコインを購入した。

 アルトコインは、短期間で価値を十倍に上げる可能性があるというメリットがある。しかし、暴騰暴落しやすい、詐欺的な通貨も数多く存在してるというデメリットがある。

「中々、金井は勝負師だな。見直したぞ」

 エリアルはほぼ全額つぎ込んだ俺のことを褒めてくれた。

 まぁ、ダメでもリセットできるしな。


 ビットコインを数時間ほどし、レートを確認すると、なんと俺の購入したビットコインは大暴落していた。

「な、なんてこった……」

「あらら〜ダメだったか〜しょうがない。これも運だ!」

 エリアルは呑気そうな顔でそう言った。

「エリアル、またリセット頼む」

「いや、無理だ」

「は?」

 俺は頭が真っ白になりそうだった。無理?

「私が起こした行動じゃなければリセットできない。ビットコインを始めたのは金井だからな。リセットは無理だ」

「お、お前! どうして言わなかったんだ! おかげでほぼ一文無しじゃないか!」

「聞かれなかったからな。それに、お前もこれで勝負の厳しさが分かっただろ。これでもう、お前は社会人になったとしても生きていけるさ。じゃあな」

 清々しい笑顔でそう言い、エリアルは天に昇って行った。

 俺は一人部屋でこう叫んだ。

「こ、この悪魔がーーーーーーーーーーーー!!!」



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働きたくない君へ マムルーク @tyandora

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