第3話 正反対の友人
「この長ったらしい銀髪頭がルイス、女っ気のない金髪がケイト。二人とも戦士だ」
「よろしくぅ」
「よろしくなー」
料理を待つ間、クリフはロロに二人を紹介した。クリフの紹介に合わせて、二人がロロに挨拶をする。それを受け、ロロは嬉しそうに聞き返す。
「ルイスとケイトだね。よろしくね。二人ともクリフの友達?」
「そう! 友達さ!」
ルイスが張り切って返事をする。たれ目の中の青い瞳が、ロロの顔をしっかりと見つめている。
「泊まるところが無くて困っていたボクを助けてくれたのがクリフなんだよ。それ以来ボクらはマブダチさ」
「マブダチの顔を殴るなよ」
「ボクより先に彼女を作った奴はダチじゃないから」
「脆い友情だな」
「男の友情って儚いもんだなー。なっ」
ロロの隣に座っていたケイトが、ロロの肩を抱く。その手には戦士特有の傷が多く残っていた。ケイトは赤い瞳をロロに向けながら、「ほぅ」と頷く。
「こういうのは苦手じゃないんだな」
「こういうのって?」
「アタイに近づかれるの。ほら、ちょっと匂うだろ。まだ風呂入ってねぇからな、血の匂いがすると思うぜ」
「そうなんだよクリフ」
ルイスがケイトたちの会話に混ざる。
「ケイトったら帰る直前にモンスターを捕まえて解体してたんだよ。お蔭で帰る途中ずっと血の匂いがしてさ、すんごく臭かったよ」
「けっ、戦士なら血に慣れろよ」
「仕方ないじゃん、なりたくてなったわけじゃ無いんだから」
ルイスがぶすっとした顔で不満を言う。向かい側に座るケイトも、不機嫌そうな顔を見せた。
「ロロは匂い気にしないよ。何回も嗅いだことあるし」
「へぇ、見た目によらないなぁ。そういえば田舎から来たんだっけ?」
「うん。ちっちゃな村で人が少なかったなぁ」
ロロは自然な様子で過去を語り出す。経歴からロロの正体が怪しまれると懸念があったが、ロロがそれを想定していたのかと思うと、クリフは感心した。
「ねぇクリフ」
クリフの腕をルイスがつつく。小声のルイスに合わせて、クリフは「なんだ?」と小声で返す。
「本当に彼女じゃないの?」
「違うって言ってんだろ。何度も言わせんな」
「マジで? マリーさんに誓って?」
「あぁ。それがどうしたってんだ」
ルイスは「ふふん」と鼻を鳴らし、嬉しそうな笑みを見せた。
「ロロちゃん可愛いじゃん。すっごい好み。だから狙おうと思うんだけど、良いよね?」
「ダメだ」
反射的にクリフは答えた。その言葉にルイスはもちろん、言った本人であるクリフも驚いていた。
クリフは気を取り直して話し続ける。
「ロロはまだ……そう、子供だ。お前みたいな軟派者に預けたら変な事を覚えてしまう。だからダメだ」
「なに父親みたいなこと言ってんの……そんなことしないって」
「じゃあ何のためにロロを狙うんだ?」
「イチャイチャしたいからに決まってんじゃん」
「どんな風にだ? え?」
「……何かクリフ変だよ」
ルイスに指摘され、クリフは押し黙る。冷静さが欠けていたことは確かだ。だがクリフは答えを変えない。
「いいから、ロロとは付き合うな。じゃないとこれからは助けないぞ」
「それは困る。分かったよ、止めときますよ。ねぇねぇ、何の話ー」
ルイスはロロたちの会話に混ざっていく。クリフは椅子の背もたれに体重を預けて思案にふける。
ロロは竜だ。人間の生活に憧れて街に来て、偶然クリフと会った。人間に対しては好意的で、死の間際でも竜にならない程の徹底ぶりだ。ルイスと付き合っても、竜であることが早々とばれる心配はない。それが分かっていても、ロロとルイスが親しくなることを避けたかった。
フェーデルでロロは、エリザベスに化けた黒竜に竜であることをばらされた。あの黒竜は初見であるにもかかわらず、ロロが竜であることを知っていた。クリフはロロが正体を明らかにするまで分からなかったのにだ。
つまり、ロロが竜であることは分かる者には分かるという事になる。ルイスとケイトは当てはまらないが、今後、それが分かる者に鉢合わせる可能性は十分にある。ロロがルイスと付き合い、デートがてらに街を歩いていたらその可能性はさらに上がる。故に付き合うのを防ぐのは当然のことだ。それを直感で分かっていたから、クリフはルイスの恋慕を妨げたのだ。そうでなければおかしいのだ。決して、ロロがルイスと付き合うのを嫌がったわけではない。クリフはそう自分を納得させた。
食事後、クリフは自室へと戻った。バッグに入っていた服や道具を外に出して片づける。道具を点検していると、部屋のドアが勢いよく開かれた。
「よう、暇してるか。してるな」
「暇じゃねぇよ」
クリフの言葉を無視して、ケイトは部屋に入ってベッドに座って胡坐をかく。女性とは思えない佇まいだった。ケイトにかまわず道具の点検を続けていると、ケイトから声を掛けてきた。
「あのロロって奴、なに?」
一瞬、クリフの手が止まった。すぐに動かし出すが、作業に集中できない。同じ部品を手で弄繰り回すだけだった。
「なにって何だ?」
「何でお前が連れまわせてんだって話。女が苦手じゃなかったのか? 特にあれはお前の苦手なタイプだ」
「どの女も等しく苦手だ」
「アタイは平気だろ」
「お前は女って感じがしないからな」
「ひでぇこと言うなぁ。けど一番苦手だろ。スキンシップが激しいのは」
クリフは沈黙で答える。ケイトの言う通り、女でも平気な相手がいる。クリフと歳の差が大きく離れた者や、女とは思えない女が該当する。ケイトは後者だ。男勝り、勝気な性格、がさつで野蛮人。容姿こそ女と一目で分かるほどだが、知れば知るほど女扱いするのが馬鹿らしく思える相手である。
一方、ロロはその真逆だ。見た目は完全に美少女で、性格や振る舞い方は竜であるはずなのに女性らしいものだ。そのうえクリフによく触ってきたり抱きついたりすることがあって心臓に悪い存在だ。
ケイトの言うことは正しい。いつものクリフならそういう相手とは距離を取るのが常だった。
だが、ロロは特別だ。
ロロは竜だ。ファルゲオン曰く黒竜ではないが、元竜でもない竜だという話だ。ロロ自身に危険性が無くても、そんなよく分からない存在から目を離すわけにはいかない。
だからクリフは、過度なスキンシップにも耐えてロロと一緒にいる。女に慣れるという目的もあるので、無駄な行為ではない。
「ま、お前が良いんだったら良いけどよ。もしうざくなったらアタイに言えよ。軽くシメてやるから」
「仲良さそうだったのに、よく出来るな」
「アタイに必要なのは、酒を飲む相手と背中を預けられる仲間だけで十分。あとマリーさんだな」
「ルイスと似たようなこと言ってんな」
「あいつは何て?」
「『可愛い彼女と助けてくれる戦士、あとマリーさん』だってよ」
「最後だけじゃねぇか……つか今回あいつと任務に行ったけど、ひでぇってもんじゃねぇぞ!」
ケイトが憤りを見せた。予想していたことなので、クリフはたいして驚かなかった。
「生態調査なのにいっつも『逃げよう逃げよう』って言ってうざったかったわ! そのせいで雑魚モンスターには逃げられて、逆に面倒なモンスターには見つかるしで大変だったんだぜ!」
「だろうな」
「お蔭で一週間の予定が倍になっちまったよ! アタイの時間を返せってんだ!」
「怪我は無かったか?」
「ねぇよ! あのビビりのせいで碌に戦闘出来なかったからな」
「ルーベルの森だろ? あそこは危険なモンスターが多いし、戦ったら無事では済まなかったかもな」
「アタイは戦いたかったんだよ! せっかくの腕試しの機会が台無しになっちまった。くそっ」
ケイトはその後も愚痴を吐き続けた。それを耳から耳へ素通りさせながら、クリフは道具の点検に集中する。ケイトの愚痴を聞きながら点検することは、クリフの日常の一つだった。
また日常に戻って来れた。クリフは少しだけ口角を上げていた。
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