Monologue.2
――銀色の巨鳥。
形が大きく変わっていたから、最初、私も気付かなかった。
前の型だったらすぐ気付いただろうと思う。
「……エピオルニスか。あの連中、こんなところで起動させやがって」
オヤジは苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。私がよく知るエピオルニスとは色々違っていた。武器が両方に二門ついた、鉄の塊に脚が生えたようなシルエットは同じだったけれど、機械がまるだしの不格好なものじゃなくて、曲面の、銀色に光る装甲がついていた。とてもすらっとした形をしていて、頭みたいなものまでついていた。おまけに背中や脚の後ろからは盛大に火を噴いていた。
それが格納庫のドアを突き破って出てきて、あの娘の行く手を塞いだ。これまでのエピオルニスではあり得ないくらい、すごい速さだった。
新しいやつ? と私はオヤジに訊ねた。オヤジはややあってから口を開いて、言った。
「Mk.II……と、あいつらは言っていた。まさか勝手にパイロットまで組み込んでいやがったとはな」
何が何だか分からなかったけれど、自分達も知らないことだったらしかった。
―――
エピオルニスが動いているということは、中にカナリアがいるということだ。
「こんなところまで入ってくるとはな、アノマリーめ!」
はっきりと、凜とした声でエピオルニスは喋った。その声は、私もよく知るカナリアの一人のものだった。あんな芝居がかった口調で話すカナリアなんて、そう何人もいない。
エピオルニスはぎゅんぎゅんと火を噴きながら素早い動きで触手を避け、機関銃を連射しはじめた。ライフルなんかとは比べものにならないくらい大きな重機関銃から弾が次々と撃ち込まれ、そこら中に体液が飛び散った。それでもあの娘はゆっくり先に進もうとしていた。
そこで私の頭に疑問が浮かんだ。どうしてあのパイロットは……Topiaは、あの娘を前にしてまともに動けるのだろうと。カナリアだけでなくヒトまでもが抵抗を止めて行く末を見守り始めていた中、何故Topiaだけが単独で抵抗を始めたのだろうと。
それをオヤジに言うと、ますます渋い顔になった。知らなくて良いと言ったが、それを押して私は訊ねた。Topiaは知り合いだ。まあ、あの時の私にとっては、少ない友人と言ってもよかった。
「あのお嬢ちゃんは、もうパイロットでもカナリアでもねえ。アレはただの生体パーツだ」
私は聞き返した。
「言った通りだよ。両腕どころか、残った片脚までもがれて、そのまんまエピオルニスに組み込まれた。二度とあの機体から出ることは出来ないし、神経まで弄られてる。エピオルニスそのものになったってわけだ。そういうことをして初めて動く“高性能機体”なんだとさ、あの新型は」
私はもう一度聞き返した。
オヤジはもう答えなかった。
―――
「ここは大事な、カナリア達の還るべき場所だ。彼女らの為にも、これ以上暴れさせるわけにはいかん」
Topiaはもう自分がカナリアだと言わなかった。他のカナリアとはちょっと違う、あのバカみたいに一直線な性格はそのままで……相手が誰だかも知らないで……必死に務めを果たそうとしていた。要するに、それらを全て分かった上で、Topiaは“組み込まれた”んだと思う。
「そこまでやる必要はあったのかよ、あのクソッタレどもめ」
オヤジはそう吐き捨てた。
Topiaは機体を操り、弾を叩き込み続けた。見たこともない速さで、ばかでかい脚がステップを踏む度に火花が散った。噴き出す炎が床を焼き、鋼が軋みを立てた。
それでもやっぱりあの娘は先へ進もうとしていた。どれだけの弾丸がばらまかれたのか、やがて触手の一本が脚を絡め取り、機体を転倒させた。
そしてあの娘は、Topiaが組み込まれた機体の胴体あたりに触手を伸ばし、容赦もなく貫いた。
あっという間だった。
痛みを孕んだ絶叫が、拡声器を通じてベイエリア中に響いた。
……あの嫌な悲鳴は、今でもたまに思い出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます