#19 “THE IMITATION”

「唄、かあ。

 知ってるよ。前のオーナーが、よく歌ってた。メロディ、歌詞? っていうの?


 私が興味を持って、教わってみたけど、なんかね、ヘンなの、教わる内から、すぐにぽろぽろとこぼれ落ちちゃって。今は全然覚えてない。記憶処理されたわけでもないのに。

 どこまでもヒトモドキなんだなあって感じるよ。こういうのを体験すると。

 何かを感じたかって。別に、そういうのは無かったけど……そうね、なんか、心がモヤモヤする感じはした」


「そうそう、顔を覚えるのだけは得意なんだよ。相手がカナリアでもヒトでも。あれはね、みんなそうなんだ。元々が寂しがり屋の生き物なんだろうなあって思う。他の娘達も、そういうところ、あったでしょ。


 現に私も、まだ貴方のことも覚えてる。覚えてるっていうか、なんか……最近、四六時中、考えるようになっちゃって。


 だから。


 こうして身体を重ねても、嫌な気分にならない。基地にいる頃にされたのと、全然違う。あの頃の記憶なんていくら処理されてもいいやって思ったけど、この記憶だけは最後まで自分のものにする。絶対。約束する」


「貴方はまた基地に戻って……きっとこれで最後なんだよね。

 

 言わなくてもだいたい分かる。溶ける前に、こうして、会えて良かった。


 何回も来てくれて、ありがとうね。用事もないのに。からっぽの私に会うためだけに。私、運が良い方なんてもんじゃないね。とびっきりツイてる。基地であった嫌なことが全部上書きされちゃった。それくらい、感謝してるんだよ。


 ――コーヒー淹れようか。貴方の分と、私の分。

 それで、貴方が二人分飲むの」


「バイバイ。さよなら。優しいヒト」

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