#16 研究部所属 Dr.オオタニ

「“もしもあの橋を落されたら”、だって?

 物騒なことを言わないでくれ。……君が言ったと、僕は聞かなかったことにしておく」


「……説明が足りないことは認める。


 確かに、橋を落としてしまえば完全に封鎖出来るだろう。そういう意味ではもっとも簡単な地区なのかもしれない。でも。


 前に、トゥエルブは“テストケース”だと言っただろ。

 こちらも奴らも、あの橋を渡ることでしか行き来が出来ない。拡大を防ぐ手段だって、この基地の防備を万全にしてしまえば、後は手をかける必要がない。だから実験に“おあつらえ向き”なんだ。

 アノマリーどもも、橋を渡ることはあっても、壊すことはない。それくらいの知能はあるみたいだ」


「一つ懸念があるとすれば、誰でもない、カナリア達が橋を落とそうとすること、かな。


 君も話をしたことがあるだろ。防衛部の、あの屋根の上にいる人間達にさ。


 彼らには、こちら側に来たアノマリーに対処する以外に、もう一つ役目がある。

 それは、“もしも不穏な動きをするカナリアがいれば、射殺しろ”だ。

 橋を落とすのはこの基地にとって反逆行為そのもの。だから、後ろから撃っていい、ってことさ。飼い主に噛みつくような小鳥は不要。だろう?


 実は、これまでも無いわけじゃなかった。障害物排除用に爆薬を持たせたら、あろうことか橋の上で自爆しようとした。で、事前に察知した機関砲手によって、起爆前に殺害した。それからは探索用の装備も見直されたよ。幸いにしてけっこう頑丈な橋でね、基地の手前なんてもうだいぶボロボロだが、落ちることはないみたいだ。


 まったく、カナリアに自我なんて無ければいいんだよ。そうすれば、実験だってもっとスムーズに運ぶのにさ。そうは思わないかい」


「あの橋の名前を知ってるかな。シルバーブリッジっていうんだよ。ちょうど太陽に照らされると銀色にきらきら光るからだそうだ。


 僕らは、もうそんな光景、とっくに見飽きてるけどね」

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