#13 “THE IMITATION”
「いらっしゃい。
何か飲む? コーヒー淹れようか。いい豆の。合成じゃないやつ」
「“ヒトモドキ”。うん、確かに、アイツらはそう呼んでた。それはまだ記憶にある。
ん。……ってことは、もしかして。
――あー、やっぱり。もう聞いちゃったわけだ。
困ったな。せっかくこの店にもう一回来させるための口実にしてたのに」
「そう。私達の身体はもうすぐ溶ける。
溶けるの。文字通りね。骨も肉も、たぶん、跡形も無く。
前兆なんて無いんだって。突然そうなっちゃうみたい」
「アイツらも、わざわざ言ってくれなくていいのにね、そんなこと。
言われた時は、それはもう、希望と絶望がごっちゃになって、なんだかよく分からなくなった。……だって、せっかく解放されたのによ? ああこれから自分はもう死に怯えなくてもいいんだって思うじゃない。それが一瞬でひっくり返されて。
私が、なるべく早く来てね、って言ったのは、そういうこと。――それが分かってても、貴方は来てくれたんだよね。わざわざ。……ありがとう」
「いつ溶けるかは分からない。明日かもしれないし、明後日かもしれない。基地の中にいた時と、まったく一緒。困っちゃうよね。
でも、良いこともあるの。少なくとも、今この瞬間だけは、こうしておいしいコーヒーを淹れて、この店にいられる。トゥエルブで“溶ける”より、ここで果てるほうがよっぽどマシ。こうして、貴方とも話せて、言いたいことも言えたしね。幸せといえば、幸せなのかも。ヒトモドキにしては、私は運が良いほうだと思う」
「これからまた、基地に戻るんでしょ。この事、あの娘達に、絶対言わないでね。
――ふふふ、結局、嘘つきだね。私も。アイツらと同じ」
「私にはもう言えることもないし、貴方がここに来る用事も無くなったかもしれない。
どんどん、あの頃の記憶も無くなっていく。自分が何者だったかも、そのうち忘れる。
でも……お願い。どうか、またここに来て。
おいしいコーヒー、淹れるから。それだけは、覚えているようにするから」
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