#10 CANARY

……ああ。この前の。

 Fionaには会った? そ。ポンコツになってたでしょ、あのおチビちゃん。

 前はあんなじゃなかったんだけど。あの娘がいなくなって、んで、ひょっこり帰ってきて、研究エリアに連れて行かれて。そこらへんからおかしくなった。

 仲の良いカナリアが死ぬなんて、当たり前のことなんだけどね。アレは別格か。仲がいいってレベルじゃなかったし」


「……この怪我?

 ちょっと、昨日の任務でね。部隊の皆、私以外、みーんな死んじゃった。

 笑えるよね。私だけ車に乗って。他の連中を置いてけぼりにして」


「煙草ちょうだい。持ってるでしょ」


「現地に行って、見たものを詳細に報告するのが役目。だから、帰ってきたことを咎められることなんてない。でもさ、有益な情報なんてないんだよ。何しろあそこは入り口も入り口のほうだったんだから。部隊の皆は無駄死にみたいなモン。


 ……本音はさ、やっぱり、死にたくなかったんだよ。あんなこといっておきながら。

 一緒に戦って帰ろうねなんて言ってたのに、その娘達を私は見捨てた。何の成果を得ることもなく、おめおめと戻ってきたの。背後から聞こえる悲鳴が今でも耳に残ってる。

 一人は、最後の最後まで叫びながら、引きずられて、奥に連れて行かれた。

 もう一人は、まるで虫みたいに踏み潰されて。

 それくらいは日常茶飯事なのよ。本当は。アノマリーどもって、そういう奴らなの。これまでだって無かったわけじゃない。あれでも“マシ”なほうなんだって。“大虐殺”はアレ以上だって聞いてる。

 貴方とこの前に会って、話をしてから、私の中で何かが変わった。……話さなきゃ良かったのかもしれない。でも……でも、話したことで変わってしまった。ぼんやりとした悩みとか不安みたいな、もの。ぼんやりとしたままにしておけば良かったのに、そうでなくなってしまった。意識してしまった。一度そうなったら、元には戻らない。あんなに威勢のいいことを言ってたのに。

 いっそのこと、とっとと死んでしまえば楽なのかもしれない。あれっきり、貴方に、格好よく言ったままでさ。そうすればスッキリ。でも死にたくない。わかる? わかんないか。私もわかんない」


「何を言っても、考えてても、どうせまた私達はあの地獄に行く。それだけが役目だから。

 次の出撃は、明日かもしれないし、明後日かもしれない。


 ね。せめて、私のこと、覚えていて。他に、特に何もしなくていいから。

 次なんて、無いかもしれないし」

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