#7 研究部所属 Dr.ニノミヤ

「アレだろ、本当はサカイの奴が目当てだったんだろう? 気ィ使うこたねえって。

 奴はここ数日、ずっと出ずっぱりなんだよ。わかるだろ? 例の“アレ”の調査をしなきゃならんってな。

 ま、せっかくだから今日は俺の話を聞いていってくれや」


「しかし、ぶっちゃけ、オオタニも言ってたと思うが、アノマリーってやつは、文字通り何なのかわからん。だから、みんなあの生物自体は研究するのを止めちまった。いくら研究しても後から後から予想外のことが起こりまくるんだからな。研究者の悪夢だ。

 奴らは異次元生物。それが俺達の出した目下の結論だ。……笑うなよ。本気だ」


「で、だ。結局のところ、カナリア達に見てきてほしいのは、あの調査地区の最深部なんだよ。おそらく、そこに“次元の裂け目”がある。出てきている怪生物どもの対処より、その穴を塞ぐことが俺達にとっての目的になっている。


 異次元とか何とか、怪訝そうな顔をしているな。順を追って説明してやる。

 奴らの発生地点ってのが、それぞれの調査地区……トゥエルブだけじゃねえ、この世界にあるほぼ全ての区域の、その真ん中あたりにあるであろうことは分かっている。

 それを、俺達は“次元の裂け目”と呼んだ。

 わかるか。アノマリーどもは、なにも地底世界から現れたわけじゃねえ。事実、周辺の上空、地下には何の異常もないことは調べがついてる。空間のある一点から湧き出てる“らしい”のさ。

 これの解明がまた面倒でな。“瘴気”のせいで、観測機器は全部故障。写真を撮っても真っ黒で見えねえ。ドローンも使えねえ。人間は近づくと死ぬ。……だからカナリアを送り込んでる。こっちが理解する手段は、ほとんど奴らの報告のみだ。

 カンタンに行くようならこんな基地なんて出来なかった。敵対存在は溢れ出ないように逐次排除しなけりゃならねえ。それを掻き分けながら最深部の調査も必要。調査地区は地形が変わったり、ぽっかり穴が空いたり、重力が変化したり、異常現象だらけ……なんだと。

 まったく、難儀なモンだ」


「あそこには何があるんだろうな。俺も、この目で見てみたいんだ。本当は。もしかしたら、そこには俺達人類がもっと発展出来るくらいのスゲェ秘密があるかもしれねえだろ?

 そうでも思わなきゃ、こんな研究、やってられるかよ」


「だがな……いや、ううん。


 俺が言ったと、他の誰にも言うなよ?


 サカイの奴、“アレ”は、もしかしたらあの場所に辿り着いたんじゃねえか、って言っていた。それが本当なら……いや、何でもねえ」

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