#2 研究部所属 Dr.オオタニ

「君か。連絡をくれた人。ようこそ。入って。ちょっと散らかってるけど、その辺に腰を下ろしてくれ。

 迷惑だったかって? そんなことはない。何しろこの基地の連中、今さら僕の話なんて誰も聞きたがらないんだ。だからむしろ大歓迎なのさ」


「何から話すかな。あの“トゥエルブ”の概要からにしよう。

 ――正式名称“調査地区十二号”。通称はそのままトゥエルブ地区。あるいは単にトゥエルブ。みんなご存じ、約半世紀前、世界各地に現れたアノマリーの出現地点。その一つ。

 元々の名称はアイボリー・フロートといって、湾の真ん中に浮かぶメガフロートで、新興商業区であると共に、ある種の実験都市でもあったらしい。電気自動車とか、無人ケアサービスとか、新しいテクノロジーのテストケースとしてね。この、古い写真を見てもわかるだろう? 高いビルやら何かのターミナルやら、少なくともアノマリーが大量発生するまでは、象牙色を基調にした、キレイで煌びやかな都市だった。


 不幸中の幸いというのかな、だから、調査地区になった後もうまく隔離することが出来た。アノマリーどもが来るとすれば、ここからフロートにかかる巨大橋を渡るしかない。で、今のところ、我々はそれを未然に防いでいる。とはいえ、トゥエルブは内臓にできた原因不明の腫瘍のようなもの。腫瘍は早く取り除かれなければならない。その為に僕らはこの基地にいる」


「“アノマリー”ね。先に言っておくけど、残念ながら僕はあまり多くのことを知らない。というか誰も分かってないんだよ、アレの正体なんて。“よく分からないという事実だけが分かっている”。確かなのは、発生地点があること。ヒトに危害を与えること。そもそもヒトはあの一帯に入るだけで“瘴気”に身体を蝕まれて死ぬ。

 危険なのはあの怪物どもだけじゃない。発生地点で起きているという空間異常とか、物質異常とか、諸々を含めてアノマリーと称するんだ。そしていつどこで新たに発生するか分からない。――だから、上層部は、あの地獄になったアイボリー・フロートをまたしても“都合の良いテストケース”の場にした。つまりは、そういうこと」


「あとは? 何か、他にも聞きたそうな顔をしているね」


「ああ。“カナリア”達か。ごめんよ、僕は詳しくない。

 というか、単純に興味がないんだ。持ってくるサンプルには興味があるけど、基本的にはただの実験体だよ。例の……彼女のことも含めて。変化をおこした“アレ”の生体には興味があるけど、アレそのものには興味なんてない。

 カナリアに詳しい人間なら他にいる。後でメールしておくよ。


 これで終わりかな?」

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