第二十五話 もう一つの隠された繋がり

6月24日 08:08 〔大広間〕

【議題:霊安室からクビが消えた方法】


 僕らの目の前でクビは霊安室から消えた。時間にすれば10分に満たない間の事だ。いったいどんなトリックを使えばそんなことができるのだろうか。

 僕らはクビが使ったトリックを探るべく議論を開始する。


「そもそもよお。霊安室に逃げ込むクビを見たのはテイシ、マコ、コロの三人だけだったんだよなあ? 見間違えだったとか、そんなオチじゃねえだろうな」


「いいや、それはないよ。白い仮面に赤いコートを着ていて体型は分からなかったけれど確かに霊安室へと目掛け走る姿は人間のものだった」


 僕へと凄むジンケンに対し冷静に返答をする。霊安室へと逃げ込んだクビの正体がロボットやマネキンの類だとは到底思えない。


「でもよお、ポリス君みたいなAIもいるんだぜ? 話を聞いた限りじゃ逃げ去った人物は談話室から霊安室まで走って、扉に鍵を掛けただけなんだろ? それなら今の時代高性能のロボットでもあればできるんじゃねえのか?」


「仮にそれが可能だとしても霊安室に逃げ込んだ後、ロボットの機体はどうなるんだ? さすがに氷で作って後で消えてなくなったなんてことは無理だろう」


※「いや、そりゃあよお。霊安室には死体保管庫があっただろ? あの中に逃げ込めば」


 ジンケンの言に僕はすぐさま反論を用意する。

 逃げ込んだクビを追って霊安室に入った僕らは当然、あの場所も調べたんだ。


 








「【死体保管庫】。残念ながらそこには死体以外のものは入っていなかったよ」


「じゃあ、やっぱり焼却炉の中じゃねえか? ロボットだったら焼却炉で燃やしちまえば証拠隠滅できるだろ」


「いや、ロボットが金属でできているのだとしたら燃え尽きることはないだろうから焼却炉の中にパーツが燃え残るはずだよ」


「じゃあ、やっぱり焼却炉の中を確認するしかないみたいだな。ポリス君! まだ焼却炉の冷却は終わらねえのかよ!?」


『あと30分ほどかかるでありますな』


「ちっ、なら待つしかねえか」


 苦々し気に言葉を吐き捨てるジンケン。彼の口調には明らかな焦りが見て取れる。




「ただ待っているのも芸がないだろう。その間に他の可能性も検討しておくべきだろうな」


 議論の様子を見ていたカタメが口を挟む。


「他の可能性、ですか?」


「ああ。俺達は消えたクビという存在自体にしか注目していないが、人が消えるのは何もその身体に種があるからとは限らないだろう」


 カタメの言葉に僕は頭をひねる。人が消える方法……僕も考えなかったわけではない。だが、今まで見つけられなかったのだ。そんな方法、本当にあるのだろうか。


「例えば隠し通路だ。霊安室にあった死体保管庫や焼却炉からどこかにつながる隠された通路があったとは考えられないか?」


「いや、死体保管庫は僕らもさんざん調べましたし怪しい隙間は見つかりませんでしたよ」


「焼却炉もシラベさんがしっかり調べていたよね。それで隠し通路は無いと断言していたっけ」


 ん? 僕は何か、頭に引っ掛かるのを感じる。隠し通路、本当に霊安室には無かったのだろうか。

 僕の疑問をよそにマコが話を続ける。


「あっ、そう言えば一人しか調べていないところが出てはいけないってカタメさんも焼却炉の中を調べたんだよね」


「うん? いや、そう言って俺が調べたのは暖炉の中だ」


 ! 一本に線がつながった感覚。

 まだうまく言葉にはできないが、この直感が真実につながっている気がする。


「カタメさん。あなたは暖炉の調査をしたんでしたよね」


※「ああ。シラベの証言を聞いて俺も暖炉を調査した。結果はシラベの報告と全く同じで不審な箇所は無かったがな」


 暖炉を調べたシラベと、カタメの結果が同じ? 本当にそうだろうか。確かに二人とも暖炉の中からは不審なものは見つからなかったと証言している。だがシラベは暖炉の調査の後、ある理由から着替えに行っている。もし、調査結果が同じであればカタメも同じ状況になっていたはずで、けれどもカタメには着替えに行けない理由があったはずだ。僕はカタメにその理由を突き付ける!









「【カタメの服事情】。カタメさんは最初の調査の時点では替えの服が無かったんですよね」


「ああ。最初に与えられた荷物の中に入っていなかったからな」


「暖炉を調べた時、シラベさんの服は煤で汚れてしまったそうです。そのあとシラベさんは着替えをしたそうですが、当然カタメさんに着替えはありませんよね?」


「なっ!? だが俺はきちんと暖炉の中を調査したぞ」


 浮かぶ矛盾。カタメが暖炉を調査したことに嘘はないだろう。そうなるとシラベはどこで煤を付けてきたんだ? そう考えた時、僕の頭にある光景が浮かぶ。そう、調査の時シラベさんは煤だらけになったはずだ。そのもう一か所とは。




「もしかしてシラベさんは焼却炉の中で煤を付けたんじゃ?」


「焼却炉で煤を付けた、だと。まさか、テイシ」


「はい。シラベさんは調査の時、二度煤がつく場面がありました。一度目は暖炉で、そして二度目は焼却炉で。けれどもカタメさんが暖炉を調べた時服に煤はつかなかった。つまり考えられるのは暖炉と焼却炉がつながっているということです!」


 僕の発言に場はざわめく。明らかになったかもしれない隠し通路の存在。仮にこの考えが正しいのだとすればクビが霊安室から消えた方法に決着がつくんだ。


「少し待ってください」


 デンシが割って入る。


「シラベさんは暖炉や焼却炉を調べた際に隠し通路のようなものは無かったと証言されていたはずですよね。ですが、今の論ではシラベさんが隠し通路を発見し、暖炉側から焼却炉まで移動していたことになる。それではシラベさんの証言と矛盾してしまいます」


「それは……確かにそうですが」


「そんなもの矛盾でも何でもないだろう。シラベはクビを出し抜く切る札として隠し通路の事を黙っていた、そう考えることができるだろう」


 デンシの言葉に対し答えに窮する僕。するとカタメから助け船が出される。


「クビを出し抜くため、ですか?」


「ああ。考えてもみろ。隠し通路を用意していたのは間違いなくクビだ。そしてそんな大規模なものを用意していた以上、クビは犯行計画に隠し通路を組み込むはずだ。けれども参加者の誰かが隠し通路の存在に気付いたとなればどうだ? クビは隠し通路を使うことを諦めるはずだ。では隠し通路の存在に気付いた事を隠していたら? クビは遠慮なく隠し通路を使った計画を実行し殺しを行う。そこで隠し通路の存在を皆に伝えればクビを追い詰める切り札になるかもしれない、シラベはそう考えたのではないだろうか」


「クビを捕まえるために黙っていた、そう言うことなのですね」


 カタメの言に納得したのかデンシは静かにうなずく。


「これでクビ消失の謎。その解明にめどが立ったな」


「焼却炉に入れるようになったらすぐに探索に行きましょう」


 これで一歩前進できただろうか。僕らは焼却炉が冷めるのを待ち、霊安室へと向かった。

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