第7話 糸が切れたように

いつも通り、校内のコンビニで昼食を買う。

気分というほどのものではないが、今日はおにぎりにした。

コンビニでは何も見えなかった。

一通り買い物を終えて、教室の方向へ歩みを早める。

昼時とはいえ、廊下を歩く生徒の数はまばらで、大多数は既に各自の教室で昼食を摂っていた。

その時だった。


「――――――」


大丈夫!?


―誰が?


次の瞬間、眩暈がして足から力が抜けた。


廊下のど真ん中で倒れこむわけにはいかない。意地のような踏ん張りでよろめきながらもなんとか廊下の窓際までたどり着き、サッシを掴むようにしてしゃがみこんだ。

時折誰かがこちらを見ているような気がするが、声をかけるようなことはなく通り過ぎていく。

足が軽く震えていて、力が入らない。

暫くの間、立ち上がるのは無理そうだった。

それにしても、さっきの。

誰かがよろめいて倒れるのが見えた。

一瞬、誰なのかな、と思った。

でも見えたのは、一番近いからこそ一番よくわからない、自分の背中だった。

見えたのが、自分だというのがちょっと驚きだった。

今まではそんなこと無かったのに。


足の脱力と震えは、一向に治まりそうにない。


流石にやばいかと思い、メッセージで助けを呼ぶことにした。


「たすてけ」


―誤字った。

思いの他、すぐに既読がつき、


「どした?」


と返ってきた。


「力抜けて立てない。今―――」


幸い、おふざけとは取られなかったようで、少し経って一人が探しに来た。


「おお、いたいた。だいじょーぶかい?」


「―ん、ありがと」


友人の腕と肩にしがみついて、なんとか立ち上がる。


「まだ無理そう?」


「……ダメそう」


足を怪我したスポーツ選手よろしく、肩に腕を回して、友人に体重を預けるようにゆっくり歩きだす。

震えは治まってきたものの、まだ足に力が入らない。

「保健室行く?」

「行った方がいいのかなぁ」

「顔色悪そうだし、行った方がいいよ」

と言われ、そのまま方向転換。

自分たちの教室に戻るより早く着いた保健室は、明かりこそついているものの無人だった。

養護教諭は昼食のためか不在のようで、校舎の隅の方にある保健室は、騒がしい昼間の教室とは対称的にとても静かだ。時折、パタパタと天井から足音が聞こえる。

とりあえずベッドに座り、回復を待つことにした。

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