第3話 無関係

超能力者みたい

そう言われた事があった。

もちろん、私に起きている事なんて相手は知らない。


完璧に、自分の思い通りに使えたなら、やっぱり超能力だったかもしれない。

でも結局は、突然襲ってくるだけで、私にはいつも後悔しか残していかない。

そんなもの、超能力なんかじゃなくて、病気だ。

半ば本気でそう思っている。


                  *


もう日が落ちたのか。

自転車を走らせながら、そんなことを思っていた。

秋も過ぎてもう冬になろうとしているこの時期、ということを考えればなんら自然なことだ。

身体の時期・時間の感覚は何故か学校基準で動いていて、自分の中にあるのは二学期も半ばを過ぎた、ということだけ。季節の情報まで含まれていなかった。

これって学生だからなのかな。

不思議なものだ。

クイズ番組の正解ランプの様に、ボロい自転車のヘッドライトがきゅるきゅると空回りするような音を立てながら明滅している。そろそろこの自転車も買い替えなければ。

夕飯の食材が前かごの中で揺れている。

せっかく家でゆっくり読書をしていたのに、夕飯の食材が足らないからと母親にスーパーへ駆り出されたので、自分で言うのもなんだがちょっと不機嫌だ。

住宅街の薄暗街灯が照らす道路をきゅるきゅる音を響かせながら走っていく。

この角を曲がれば家に着く。交差点の手前でハンドルをくいっと回す。

短く鳴らされたクラクションの音で、後から走ってきていた車に気づいた。何にも音がしなかったが、我ながら不注意だった。

交差点を渡り切ってからドライバーにお辞儀で謝り、再び自転車のペダルに力を込めた。



刹那、意識がフェードアウト


「----------------!!!」


―悲鳴


―轟音


―悲鳴



すぐに元に戻り、自転車のバランスを崩すことはなかった。

が、そんなことはどうでもよかった。

さっきの方向とは違う方向の道路から聞こえるエンジン音から逃げるように、出しうる渾身の力をもってペダルを漕ぐ。


―できるだけ早くこの場から離れなければ!


何が起きるかはわからなかった。とにかく何かが見えた。

今までに無いくらい強烈に嫌な予感がした。


全ての物事がスロウモーションで流れた。


どれ位離れられたのかはわからない。


嫌な予感を、どれほど避けられたのかもわからない。

ただ、その一瞬の後。


何かが潰れたような、何かが割れたような、何かを引きずっているような。

色々な最悪を引き連れて、轟音が金属の塊と共に迫ってくる。


無我夢中でペダルを漕いだ。



轍に前輪をとられ大きくバランスが崩れた。

自分の身体と夕飯の食材が地面に投げ出される。

嫌というほど地面に身体を打ち付けられて息が詰まる。

痛みに顔をしかめながら恐る恐る後ろを見て、さっき見えた最悪を回避できた事を知った。

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