第2話 私の「日常」
他人からはよく、優柔不断と言われる。
私は、いろんなことを決めるのに、よく時間がかかる。
外食のレストランでの注文だって、些細な買い物だって、何処かに出かけようか迷っている時だって。
結局、いつも私だけおいてけぼり。
なんでみんなそんなに早く決められるの?
もっと悩んだり、しないの?
*
「―――」
―あ、私の次で最後か。
校内にあるコンビニで、サンドイッチの袋を手に取りながらふとそんなことが視えた。
数秒の間動きが止まっている私を邪魔だと言わんばかりに押し流すように人波が流れる。
ある秋の日の昼休み、校内にある購買も兼ねた小さなコンビニは昼食を買いに来た生徒でごった返していた。
一通りそろったので、レジに通すべく窮屈な店内を縦横無尽に走っている列の最後尾に並ぶ。
先ほどのサンドイッチが並んでいた棚にそれとなく視線をやると、先ほど視えた生徒がいつものやつが無い、といった風に棚を眺めているのが見えた。
今日はサンドイッチを諦めたのか、別の棚へと人の波をかき分けて歩いて行った。
何年何組出席番号何番なのかは知らないが。
そもそも何故校内にコンビニなぞあるのか、と高校に進学した時は不思議に思ったものだ。
新校舎に移転した際に、近くの系列大学のキャンパス内にあるのを見た校長がこれは良いと導入を決めたそうで。
学校仕様なのか大分品揃えは極端だが、食品から文具までとりあえず困らない程度には物は置いてあるし、ポイントカードも使えるしで重宝している。
とりあえず会計を済ませ、教室に戻る。
私の姿を見て、やっと戻ってきたと言わんばかりに弁当組の二人が机を寄せる。
一緒にご飯を食べているのは、中学からの友人たち。
中高一貫のこの学校としては珍しいことではなく、またクラスも少ないので、見知った顔はこの二人だけではない。
弁当持参の二人と他愛もな会話をしつつ、サンドイッチをもそもそと咀嚼する。
お互い特に熱中しているような趣味もなく、昨日なんとなく見ていたドラマの話だったり、ツイッターでみかけた面白いツイートだったり、そんな感じ。
そういや今日何曜日だったっけ、とスマホを起動させる。
もう週末と言うべき、金曜だった。
週六日授業があるわけではないので、明日明後日は休み。
「もう金曜かぁ」
サンドイッチを食べ終えため息のように言う。
「なんも考えてないし土日どうしようかな」
もちろん、わざと予定を入れてないわけではない。
学生の土日なんてそんなもんじゃないのかな、と思う。
普段は、家で一人で過ごすことが多い。父親の顔はほとんど会ったことのない遠い親戚くらいにしか覚えておらず、母親は百貨店に勤めており基本日中は家にいない。
そもそも私自身がインドア派で、外に出て運動したり買い物したりというよりは、家で本やマンガを読んでいたり家事をしている方が気が楽だし落ち着く。
目の前にいる二人は、週末に近くのアミューズメント施設に遊びに行くようで、スマホを片手にその話で盛り上がっていた。
特に興味もなく、片手間にスマホをいじる。
いつもの、所謂特筆するようなこともない、本当にいつも通りの日常。
でも、そんな日常の中にも、私にはちょっとした異物のようなものがあった。
食べ終えたサンドイッチの袋を捨てに行こうと席を立つ。
教室前側の扉のそばにあるゴミ箱へ向かうため、しっちゃかめっちゃかになっている教室の座席の間を縫うようにして歩く。
袋を捨てて席に戻ろうとした直後に扉の傍である男子とすれ違った。
すっと肩を引いたすれ違いざまに、その男子サイフが落ちたのが見えた。
「サイフ落としたよ?」
昼休みの教室の喧騒に負けないようにちょっと声を張った。
その男子もポケットの違和感に気づいたのか、こちらを振り返った。
「おっ、サンキュー」
直後、目の前の景色がフェードアウト
廊下の窓から飛び込んでくる何か。
砕け散る破片とその何かが目の前の男子に―
「危ないッ!!!」
サイフを受け取ろうとその男子が伸ばした腕を躊躇いなく掴み教室の奥へと引っ張る。
何が起きているのかわからないといった表情で、引っ張られるまま近づいてくる。
直後、ガラスが砕け散る大きな音が聞こえた。
刹那、目の前を白い物体が掠めていった。
教室中に悲鳴が沸き上がる。
男子を引っ張ったはいいが、その勢いを止めることができず、足元に誰かのカバンに蹴躓き転んだ。巻き添えをくらいその男子も転ぶ。
と、腕を掴みっぱなしだったことに気づき、慌てて離した。
「……大丈夫?」
立ち上がってから、微妙な恥ずかしさを紛らわすように訊く。
「……ああ、おかげさまでな」
「―よかった」
スカートについた埃をはらいながら席に戻ると、
「目の前でガラス割れてたけど大丈夫?ケガしてない?」
と友人が聞いてきたので、
「間一髪」
とだけ答えておいた。
正直、あのタイミングで来るとは思っていなかったが。
同じ階の他クラスにも騒ぎが広まり、誰かが呼んだのか用務員と担任がこちらに来るのが見えた。
そう。これが、私の日常の異物。
未来予知なんて便利なものじゃない。
ただ、私がしたことの結果が先に見えるだけ。
例え、それが良い結果だとしても、悪い結果だったとしても。
否応なしに、見せつけてくる。
毎回じゃ、ないけどね。
私が選択した行為が、その結果が、見える。
そうなってから私は、物事を決めるのに、人一倍長い時間をかけるようにしている。
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