第14話 餌・罠・終演
彼は、獲物を追っていた。
奪ったハンマーを手に、一人の女を追っていた。
近づけば離れ、離れれば近づき、そのたびにハンマーを振るい殺そうとしていた。
獲物に当たらなかったハンマーで、敷石を割り、壁を壊し後を追う。
何度目か、殺そうとハンマーを振るった時、獲物は大きな建物に転がり込んだ。
隠れたつもりだろうか?彼はあたりを見回し、ゆっくりと後を追って入って行った。
中には、追っていた獲物と、探していた獲物が居た。
ランプの薄明りの中に二人、一人は剣を構え大きく息をついている、もう一人は彼を見つめている。
追い詰めるために建物の中に入ると、背後で大きな音を立てて入り口が閉じられ、続いて二度三度と大きな音がする。
倉庫の入り口を塞がれたのだが、彼はそこまで気がつかないのか、閉じられた入り口を眺め、少し首をかしげただけだった。
不意に明かりがともり、その明るさに手で顔を覆う。
魔法で作られたその明かりは、空中で眩い光を放っている。
一人の女が口を開いた。
「不思議かい?こんなところに閉じ込められたの、別に君が出られないとは思ってないけどね」
何を言っているんだ?わからない。
「何もないだろ?君をここに処理するために片づけてもらったんだ、明り取りの窓も入り口も、外から見れないようにしっかりと閉じてもらった、あ、ちゃんとチェックもしているよ」
彼には理解できない、わからない。
「女神様たちから、コレを使うのに条件を付けられてから教えてもらったんだ。
1つ、他の者に見せないこと
2つ、他の者に教えぬこと
3つ、2度と使わぬこと
この世界で容易に召喚をさせないための条件だよ、今の時点でだけどね」
ワカラナイ、ワカラナイ、ワカラナイ?
「出来れば、細切れにでもしてやりたいんだが、それもできないようだしね、ではさようなら、そして・・・」
「二度と来るな!」
女が叫んだ瞬間、彼の上下四方に複雑な記号が浮かび上がる、それが魔法陣と呼ばれるモノだとは無論知りようがない。
光が広がった瞬間、彼の姿はこの世界から消えていった。
女神が彼女らに託した策は、彼をもとの世界に戻す事。
現状、彼を倒す手筈がない事、女神たちが直接手を下せない為の苦肉の策。
魔法使いステアに託されたのは【異世界転送陣】、だが直接異世界に送るものではない、それは狭間と呼ばれる場所に送り込むためのもの。
そして、その狭間には・・・
次に彼が気がついたのは、どこまでも白い空間だった。
どんなに力を入れようと、体は動かない、目だけをギョロギョロと動かし周りを見ている。
そこには一人の少女が立っていた、磁器のような白い肌、銀の目とセミロングストレートの銀髪を虹色に輝かせ、白のワンピースを着て腕を組んでしかめっ面で立っている。
「ふん、手間をかけさせおって、とっとと送り返してくれるわ」
少女が手をかざすと、虹色に輝く球体が現れる、それに彼の体は吸い込まれ、彼の意識は闇に落ちた。
ストンと尻もちを付き、ソーラが笑いながらステア話しかける。
「ちくしょう!終わったー!ステア、終わったよ!」
ステアを見て、ぎょっとする荒い息をしびっしょりと脂汗を流してこちらを見て笑っている。
「あぁ、終わったね、ソーラお疲れ様、大丈夫、集中のし過ぎでクラクラするだけだよ、魔力も使いすぎたからな」
「女神様からもらった魔力補充の宝珠も全部だめだ、残ったら貰っとこうと思っていたのに」
そう言って、手から数個の宝珠を落とす、すべて輝きを失なっている。
「何にしてもすんなり終わってよかった、失敗したらと思うとゾッとするね」
ソーラがMP回復のポーションを渡しながら、少しおどけて言う。
「女神様の策なんだから、すんなり終わって貰わないと困るよ」
ステアも微笑みながら答える。
生き延びた二人は、肩を組み微笑みながら外に出て行った。
これからどうしよう、細かい事が済んだらグラムを復活させる方法を探そう。
メイサを殴りに行くか、国家反逆罪とかで極刑だぞ。
なら、二人でいい男でも探しながら、どこかに逃げるか。
そんな軽愚痴を言いながら。
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