第13話 対峙・対決

 目の前に、あの大男が居る。

 ソーラは、馬から降り大男に向き合い軽愚痴を放つ。

「よぉ、元気そうじゃないか、会いたかったぜ」

 肌が泡立つ、ギリギリと歯噛みをし睨みつける。


 倉庫街の臨時騎士団詰所から見張り役の報告があった場所に馬で移動した時、アイツは聖剣グラムドリンを片手に悠々と歩いていた。

 いや、どういう訳かソーラの居場所に向かって歩いて来ていたのだ。

「けっ、獲物ってか」小声でつぶやく、大男が手に持った聖剣グラムドリンを一瞥し顔をしかめる。

(グラムは聖剣形態だと魔力で白く光ったたよな・・・)頭を振り嫌な予感を振り払い、ウォーハンマーを構える。

(何でもぶった斬れる訳じゃなくなってるなら、確率が上がるよな) 

「行くぜ!化け物!!」

 強化魔法で身体能力が上がり、風の様に間合いを詰めると、ハンマを振るった。


 ゴッゴッとハンマーが当たるたびに巨木をたたいているような音がする。

 膝、胴、頭、致命傷になる打撃を受けているが、グラリと揺らぐだけで倒れない。

「どんだけなんだよ!てめぇ!」

 剣の斬撃を避け受け流し打ち据える、戦っていてうちにソーラは確信した(こいつは素人だ)、剣術なんてわかっていない、ただ力任せに振るっている。

 バカ力で振るってくるので早いが、強化された身体能力でかわせていた。

 グラムドリンが聖剣としての力を失っているのも幸いしていた、受け流しなどできなかっただろう。


 頃合いだろう、ソーラはステアと話し合った策の一つ目を実行することにした。

 この策は、正直うまくいくかは運任せ、うまくいかなければ諦めるしかない。


「やるぞ!よろしく!」大声で支援に来ている魔導士たちに合図を送る。

 かわしながら間合いを取る、集中、少しの隙も見逃さない、最高の一撃を決めるために。

 上段からの斬撃に合わせて、ソーラもハンマーを振るう、打ち合わせるつもりはない、狙うのは。


 手首。


 思い切り打ち下ろされたハンマーに、魔導士たちの魔法がハンマーに発動する。

 重力魔法、物体の重さを何倍にもする魔法がハンマーに掛かり振り下ろされ見事に手首にあたる、ボキリと鈍い音を立て剣の握りが緩む。

 ハンマーを離し、手を思い切り蹴り上げる、飛び離れたグラムドリンを飛び込み抱きしめるように抱え込んで回収するソーラ。

「お帰り、グラム」小声でつぶやく。


 ゴキンと小さい音がする、首を回すと大男がハンマーを手に立っている。

(もう【復元】したか)女神たちとの話し合いの時に、コイツの能力についての話もあった、予想ではあるが【復元】の能力、傷ついてもパーツさえあれば元に戻る。

 厄介な能力である、切り離せば何とかなるんだろうが、現状その手立てがない。


「こっちだ化け物!」

 ソーラが叫ぶ、これからはだ、食らいつかれないように目的の場所に誘い込む。

 倉庫街をソーラは駆け抜けていく、離さないように追いつかれないように。


 ステアは、立ち並ぶ倉庫の一つの中に居た。

 入り口は開け放たれているが、光取りの窓は分厚い木でふさがれ、薄暗い。

 中に荷物はなく、彼女だけが、そばにあるランプで照らし出されている。

 女神たちと話、託された一つの策、それを実行するために静かに目を伏せ、友の帰りを待っていた。

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