第11話 会議は踊る

「なるほど、では、その魔物・・・ヒカルを殺した大男は、異世界の勇者と同じ力を有している可能性はありませんか?」ステアが問う。


『その通りじゃ、異世界の勇者としての特性を持っている、と思って構わないと思う』


「そりゃ、どういう事?」ソーラが訊ねる。

「思い出しなさい、ヒカルの強くなるのは異常だったでしょ?戦えば戦うほど強くなって」ステアが思い出すように言った。

ヒカル本人は経験値がどうとかとか、LvUPがどうとか、ステータス上昇率がどうとかと言っていた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」ショーンが慌てて口を挟む、「最近、このあたりで魔獣や魔物がやたら倒されてるんだ、もしその大男が倒していたら・・・?」


女神ワーラが沈痛な面持ちで答える。

『その通りです、そしてヒカルは人、アレは魔物です、それを踏まえると、もはや勇者や魔王クラスの実力を持っているでしょう』


その言葉を聞いて、ショーンとタイロンが唸る、勇者や魔王クラスだと下手をすると一国を滅ぼす力があると言われている、ならば駐屯してる騎士団や冒険者ギルドの冒険者では太刀打ちできないのではないか。


「太刀打ちできなくても騎士団はやらねばな、逃げるわけにはいかん、少なくても街の人々から犠牲はだせん」

それほどの相手なら騎士団は壊滅するかもしれない、部下たちは死なせたくないのだが。


「ギルドは当てにしないでくれ、冒険者は命を懸ける義理はないからな・・・まぁ、俺は最後まで付き合わせてもらうがな」

腕に覚えのある命知らずも居るが、当てにしない方がいいだろう。

「正直、どれほど恐ろしいと説明しても信じやせんだろうな、そうなると戒厳令や避難勧告をするわけにもいかないだろう、女神様たちが直接奇跡でも見せて信じさせなければ、とてもとても・・・」

二柱の女神を目の前にしていなければ、ショーンもタイロンも信じられなかったろう。


重い雰囲気の中ステアが口を開く。

「もう一つ気になることがあるんだ」

「ぼくたちが戦った時、魔法を使ってこなかった、使えないのか、使えるのに使わなかったのか・・・甘く見られて使ってこなかったのなら癪に障るけど」

魔法使いであるステアには、あの大男は、恐ろしいほど魔素を持っているように見えた。

魔法文化が発達しているこの世界では、攻撃魔法や強化魔法が使えれば、戦闘でも難易度が下がる。


『おそらくだが、アレは魔法は使えない、魔導の理を理解し実践する知恵がない、敵・・・ではないな、殺す相手、獲物を見つけたら追い詰めて殺す、それだけの存在、とでも言うか・・・』


「魔法が使えないという事だけでもわかって幸いです、アレは快楽殺人鬼のようなものでしょうか?」ステアが問う、あの大男に人を殺して喜ぶ意思があるのか?と。


『いや、自身の快楽としてではないであろう、正直、アレはあちらの世界でも理から外れた存在なのじゃ、理解できないほどのな』眉をしかめ少女神ヨーグは言った。


「でも、女神様たちが来たのは、なのでしょ?」

ステアが二柱を見つめながら言った。






女神二柱を交えた話し合いは続き、ステアとソーラが宿屋に帰ったのは昼過ぎになっていた。

二人とも疲れ果てて、泥のように眠りについた。


一両日中にもあの大男は、ソーラとステアを狙ってくるだろう。

確信めいたものが二人にはあった。


そして、彼を退ける手はないわけじゃない。


夕刻、大量の水生魔物の死体が湖畔に流れ着き、大騒ぎになっていた。

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