第9話 別離

 街について夜が白み始め日が昇ってくるまで、ソーラ、ステア、メイサ、イルマの四人は、冒険者ギルド長のショーン、駐屯騎士団長タイロンと今回の出来事の報告をしていた、長としての二人が直接話を聞いているのは、PTメンバーにこの国の第二王女であるメイサが居るからに他ならない。


 殺されたのはPTメンバーで、獣人のナココ、勇者のヒカル、奪われたのは聖剣、そしてやったのは異様な大男。

 聖剣を持った勇者を殺し、上級魔法をものともしなかった、退けはしたが、おそらく生きている。

「勇者か、強さは本物であったようだから・・・信じられんが」タイロンがつぶやくと、ショーンが、「そうだな」とうなずく。


 騎士団への挨拶の時も、ギルドへの顔出しの時も、ひと悶着あったのだが、「はいはい、テンプレテンプレ」などと訳の分からない事を言いながら、相手に大ケガをさせてたからだ。

 正直、その後のなめた態度も言葉遣いも稚拙で、とても勇者とは思えなかったのだが。

 とにかく、勇者としての彼が殺されたと言う事実と、殺した大男の事を思案していると、メイサが「報告も終わりましたし、団長とギルド長は少し席を外していただけませんか?」と話しかける。


 二人が顔をしかめながら部屋から出ていくと、メイサがおもむろに口を開く。

「さて、ソーラにステア、が亡くなったので私たちは王都に帰ろうと思います、勇者PTを離脱という事でよろしいですわね?」

「はぁ?」ソーラが呆れ怒ったように「お前!何言ってんだ!」と怒鳴った瞬間、

 喉元めがけイルマのロングソードが抜剣される、軌道を見切りショートソードを抜いて迎え撃つソーラ、がステアが杖を掲げながら止める。


「ソーラ、押さえろコイツはだ」止めてる本人は何時でも魔法を放てるようにしているが。

「良いわイルマ、剣を下げなさい」こちらも従者であるイルマを止める、冷たい微笑みをその顔に張り付けて。

「今の無礼は許しましょう、それでは、お二人ごきげんよう、もう二度と会うこともないでしょう、もはや下々のモノと関わりにもならないでしょうしね」

 そう言うと、踵を返し部屋を出ていくメイサとイルマ。


「何だありゃ!」床を蹴りながら吐き捨てるソーラ。

「ヒカルさまヒカル様ってベタベタしてやがったのに、死んだら用無しってか!ふざけんな!」

「気がついてなかったのかい?アレは、ぼくたちを利用としてただけだよ」

 眉をしかめながらステアは続ける。

「世界を救う勇者と、寄り添う聖女、ヒカルが勇者として活躍すればそばに居る聖女も名が上がる、物語としても素敵だろ」


「まぁ、アレは聖女なんて言えないほどお粗末だったけどね」

「どうゆうことだ?聖女じゃなかったってことか?」

「魔素も素質もダメだね、唱えられる魔法も良くて中位、アレがまともに治癒魔法唱えたところ見たことないだろ?第一王女が聖女の称号を貰えたらしいから、対抗心で聖女を名乗っていたのかもね、神託も受けられないものは聖女とは呼ばれないだろうよ、権力と金で買ったのかもしれないしね」

「そういや、王様は娘に大甘だって噂があったなぁ・・・」

 二人で顔をしかめ話していると、ギルド長と騎士団長がドタドタと部屋に入ってきた。

「おい、姫様たち王都に行くって出て行ったが、何かあったのか?」

 苦笑いをするステアとソーラの二人だった。


「で、お前たちはどうするんだ?報告にあった大男はほっとくわけにもいかないだろうし、俺たちに任せてここを出るって手もあるが」

 騎士団長のタイロンが、訊ねてくる。

「あたいたちは引く気はないよ、敵討ちって気持ちもあるけどな」

「そうだね、実際に相手したぼく等がいた方がいいだろ」

 正直、騎士団でも相手になるのかわからなかった、対抗手段も思いつかない、あまりにも異様で異質だったから。

「それでも、迎え撃つ準備をしないと」


 重苦しい空気に包まれた部屋の中に、不意に子供のような透き通った声が響く。


『すまんが主等、我らも話に加わらせてもらうぞ』


 声のした方に顔を向けると、そこにはボンヤリとした光に包まれた、10歳くらいの少女と20代と思われる女性が立っていた。

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