第8話 勇者PT

 水晶湖はこの世界でもかなり大きい湖に属している。

 面積は約120,000km²、深水は約1,000mに達する、最深部には巨大なモンスター水龍がいるとも噂されている。



「ヒカルが呼んでおる」

 いうが早いか、紫電と化して飛んで行ったグラムを見て、慌てて後を追う準備をする、ソーラとステア。

【聖剣】としてグラムドリンを呼び出す事が尋常ではないことを二人は悟っている。


 ショートソードを腰に差し、両手剣を背負いソーラはステアに言う。

「防具はいい!後は追えるか?場所はわかるか?」

 杖を持ち、ローブを羽織りながら返事をするステア。

「大丈夫だ!探知できる!メイサたちを呼んですぐに向かおう」


 魔力探知を発動させ、グラムの魔力を追い、その場所についた。

 血生臭い、地面はぬれ暗い色になっている、異様な大男が紫電を上げて唸っている剣を携えて立っている、その近くには。

 胸を突かれ血まみれの、明るかった獣人の少女。

 真っ二つにされて血まみれになっている、よく知っている少年。

 唖然、驚愕、恐怖、昨日まで一緒に笑いあっていた仲間が血だまりに倒れていた。


「あぁああああぁああ!!!!!!!」

 最初に動いたのがソーラだった、雄たけびを上げ両手剣を振り上げ斬りかかる。

 ギィンと鈍い音を立てて聖剣で両手剣を斬られ、纏った電撃で吹き飛ばされてしまう。

 短く呻いて転がり距離をとって回避するソーラ。

 ソ-ラが離れたのを見て、間髪入れずにステアが魔法を放つ、炎の竜巻が巻き起こり異様な大男を包み込む、風と炎の複合魔法、最上級呪文であろうそれは、地面を炭化させ炎の柱となってそそり立っている。


「やったのか?」とソーラがつぶやいたが、ステアは汗をにじませ頭を振る、炎の竜巻に包まれながら、異様な大男がゆっくりと向かってきているのだ。

「ならば今度は」空気も凍る冷気がほとばしり異様な大男を氷漬けにする、が、ミシミシと音を立て氷がひび割れていく。

「嘘だろ・・・骨まで凍るッてヤツだろそれ」ショートソードを構えてソーラがつぶやく。

「今度でダメなら、逃げるよ」目を離さずつぶやくように言うステア、今一度、魔法を試してダメなら全力で逃げる、そう言っているのだ。

「・・・わかった」ソーラは小さくうなずいて唇をかむ、ヒカルとナココを置いていくのは心が痛むが大魔法使いとして、旅の仲間としてのステアの言うことなのだ。


 ソーラの視界の隅に、かなり距離をとっているイルマとメイサが入る。

 いつもなら、盾となって一緒に前に出るイルマも魔法で支援をするメイサも何もしないでいる、ショックで動けないのか?などと考えていると。

「来るぞ!」とステアの声が響く。


 ミシミシと氷が音を立てて砕けていく、いまだグラムドリンは紫電を上げて抵抗しているが、もはや意に介さない、大男はゆっくりと向かってくる。


 ステアが杖を掲げた瞬間、風が渦巻き竜巻となる、土を巻き上げ巨大な柱の様にと天高くまで伸びていく、巻き上げられるはずの大男は飛ばされる気配がない、抵抗をしているのだろう力を込めてブルブルと震えている。

「さっさと飛んでけ!!!」土魔法を複合し放つステア。

 ボコッと音がして大男の足元をえぐり、そのまま上空へと運んでいく。


 ステアはあらん限りの魔力を注ぎ込んでいる、湖の中ほどまで飛ばされ遥か上空まで運ばれたところで魔法が解除され、空でも飛べなければ助からない高さから落下していく。


 月明かりに高く上がる水柱が確認できた、「ふぅ」と小さく息をつくステア。

「やったのか?」ソーラが近くによってつぶやく。

「たぶん無理、あの魔法耐性は異常だよ」ステアが返事をする、物理耐性もおかしいのかもしれない、正直あれは魔王クラス、あるいは・・・


「おい!何があった?!大丈夫か!」不意に大声がする、見ると騎兵が5騎ほどこちらに向かってきた。

「あれだけ派手にぶっ放せば、さすがに気がつくよな」

「正直助かったよ、ヒカルたちを置いていくのは心苦しかった・・・」

「そうだな・・・」


 今だ、離れた所で固い顔をしているイルマとメイサをチラリと一瞥し、状況の報告は、街に戻ってからと現場に来た騎士団に説明して、ヒカルとナココの死体を回収してもらい街に向かって行った。

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