第6話 異世界勇者・宿の一室で
月明かりに照らされ、キラキラと光る湖面は美しく、湖畔には、家族連れが散歩していたり、カップルが肩を寄せ合ったりしていた。
魔力石で灯された街灯の光は暖かく、夜の街を照らしている。
その日、冒険者PT【女神の救い手】の6人は、領主や騎士団への挨拶、冒険者ギルドへの顔だしなど慌ただしく済まし、水晶湖の街の宿屋の一つ、《エルムの甘い夢》で、各自休息となった。
その一室、魔法使いステアの部屋で集まって、ソーラ、ステア、グラムドリンの3人が酒盛りをしている。
「なんで、毎度毎度ぼくの部屋に集まるかな・・・」カップの酒をちびりちびりと飲みながらステラが愚痴を言う。
「仕方ないだろ、あたいはともかくあんたら二人揃ったら男どもが寄ってきてうるせーしな」酒瓶を抱えアハハと笑いながらソーラが答える。
「だからって、なんでぼくの部屋なんだよ」
「ぬしも大人しくしてれば、男どもがほっとかぬだろうに」グラムドリンの言葉に、苦笑いしながらソーラが答える。
「あたいはこんなだからねぇ、うるせぇと先に手が出るし」
「それは知ってる」「知っておるのぉ」
ちぇっ、と拗ねた表情をするソーラ。
「しかしお偉いさんと会うのは疲れるねぇ、姫さんが居るからしかたねーけどさ、おかげで助かってるところもあるしな」
「メイサか、あれも色々大変じゃな、第二王女で聖女様じゃしな」
ステアは、メイサの名前が出たときにちょっと眉を顰める仕草をしたが、何時ものことなので、二人は気にもとめていない。
「まったくな、あたいは一般人だから昔は姫様とかお城とか、あこがれてたんだがな」
「そんな両手剣振り回す脳筋一般人はいないよね」「おらぬのぅ」
「ナココも獣人種だしいろいろ苦労してる、お気楽なのはソーラだけだよ」
「ステアも、エルフで【深緑の魔女】なんて呼ばれておるしな、聞いたときはびっくりしたのぉ」
「その二つ名はあまり言わないでほしいかなぁ・・・」
「おぉ、すまんの」
あたいも、色々あるんだがなぁ、とブツブツと文句を言うソーラ。
「グラムも【聖剣】なんだから、インパクトはグラムの方が強いよな、人化したときはびっくりしたぞ」
「わしを頼りすぎても、ヒカルは強くならぬからな、それに、ぬしらとこうしてるのが楽しいからな」ニカッと笑って言うグラムドリンに照れるようにうなずく二人であった。
別室、メイサは従者であり近衛騎士のイルマと話をしていた。
「姫様お疲れでございました」イルマは跪き首を垂れて挨拶をする。
「イルマ、座って楽にして、今日は疲れたけど今後のことを」
はっ、と短く同意をし椅子に座る。
「現魔王が穏健派で魔族との和平が叶ったこの世の中でも、魔物魔獣が人々を苦しめています、そして隣国の動向も・・・」
「偶然とはいえ、初代勇者と同じ異世界人が我が国内に表れて保護できたのは、他国に対しての抑止力になります、が、まだ一人で一国をも落とす力を身に着けてもらわないといけないわ、初代勇者と同じように」
その言葉を聞いて、イルマが顔をしかめて言う。
「しかし、異世界人というのは化け物ですね、強くなるのが普通じゃない、まともに修練している人間が馬鹿みたいですよ」
血を吐くような修練に励んで、姫付きの近衛兵になったイルマにはヒカルは反則にしか思えない、納得もできない。
鷹揚にうなづきメイサは言う。
「それが異世界人ということなのでしょう、礼儀も知らない大甘な子供でも勇者足り得るのですから」
「幸い、この領内にダンジョンもあるようなので、しばらく滞在するようですし経験を積ませるのがよろしいかと・・・」
とイルマは提案する。
「そうですね、明日にでも話してみましょう、こうして平民どもと旅をするのも面白いですけれども、早く強くなってもらわねば、そう、ヒカルには、もっともっと強くなってもらわなければいけないわ」
冒険者PTの聖女としての仮面を脱いでメイサはつぶやく。
「このアルティア国の第二王女・聖女メイサ・R・アルティアに釣り合うだけの英雄になってもら分ければ・・・」
メイサの美しい瞳が怪しい光を灯す。
「御意」イルマは短く答えるのであった。
その頃、ヒカルは街から離れた湖畔に来ていた。
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