第37話 誓いの儀
ジークは私が何を言っても面白いのかしつこく笑っていた。本当に失礼極まりない。どこにそんな面白さがあったというのか……。
とうとう笑いすぎて、身体に支障をきたしのか『治癒師呼んできて』という始末だし。
私はプリプリとメイドを探して治癒師を呼んでくださいとお願いすることになった。
婚約解消については、レーナが望むならば拒否する理由がないとのことでジークは承諾した。
ちょうど今年最後の日は、レーナとジークの長い婚約期間の終了の日となったが、お互い口頭で解消しましょう→そうしましょうだけで終わるはずもない。
魔子がいた平原の視察から戻ってきたお父様に婚約解消のことを告げると固まっていたし、ジークの父など『息子が何か不始末をしたのか?』と真剣に私を問いただした。
なので、とりあえず私だけで話をするより当人であるジークも交えてお話をってことになったがジークはベッドの上から動けないので、ジークの部屋に大集合となった。
結局うちの父も、『本当に解消していいのか?』と何度も食い下がってきたけれど、私達が納得してることが大きかった。
なら今後レーナはどうするのか? 代わりの婚約者を探したほうがいいのか?
となると、一応解消したということがついて回るし見つかるのか……、最悪歳も同じだからフォルトのほうに打診すべきか? ということを言っていたので。
フォルトにも迷惑をかけるつもりはなく、学園生活の中で何とか相手を見つけたいと言った。
何を絵空事をと娘に対してひどい失言を父はさり気にしていたが。
領主教育を受けてない私は、アーヴァインの跡を告げないことをわかっていること、その上で恋愛結婚をしてみたいのだというと。親馬鹿もあってか、今後どうするんだ……ということは、お前んとこの息子のせいで娘傷物になったも同然だから、解消したとしても学園の卒業までに万が一娘に相手が見つからなかったら最終的に責任とれよ! お前が責任とれよ! ということをマイルドな言葉で両方の父がジークに念押しし、ジークがそれに承諾することでなんとか解消との運びになった。
これって、ジーク側は私に相手ができるまでちゃんとした相手見つけられないんじゃ……という微妙なジークのキープ感は否めない、これじゃ解消の意味あるのだろうか? という疑問も残るがこれにて解消の話は、恋愛結婚したかったら在学中にレーナ頑張れということで話がまとまった。
父もジークが最悪の滑り止めとなることに了承したことで明らかにホッとしていたので、私が次の相手見つけられないと思っているのがバレバレで失礼極まりない。
父もジークの父もジークですら、私の次の婚約の心配ばかりなのが地味にイライラした。解消という条件は一緒なのに、ジークの次のお相手見つからなかったらどうしようについては全く話にのぼらないのはなんでだ。
私だってフォルトのハトコだけあって、そこまでひどい顔をしているわけではないと思うのに、此処まで皆に私の婚約のことだけ心配されてしまうと不安になる。
その日の夜、私は入浴後真っ白な服を着せられていた。華美なドレスとかではなく、真っ白な下着に、真っ白なワンピースだ。
なんだと思えば、年が明ける前に、婚約解消のための誓いの儀とやらを行うそう。
貴族になると、変な儀式もあってめんどくさいものだ。
私は夜遅くにジークの家を後にして別のところに移動した。
そこは真っ白な部屋だった。
椅子も何もない、真っ白の部屋、明かりはないけどなんでか明るい。
今日やらねばとのことで、ジークは万全の状態ではないけれどここに連れてこられたようだ。
包帯のまま、部屋の中心で先に立っていた。
何が起こるのかと思えば、私とジークを残して皆この奇妙な建物から出ていく。
「立ってて大丈夫なんですか?」
「ご心配ありがとう、後は目だけで他のところは多少無理をすれば動けるんだ。さて、包帯をしているから見えないんだ、左手をこちらに出してくれるかい?」
ジークにそう言われてジークの差し出された手に左手を置く。
ジークは『痛っ』などと言いつつ膝を折ると、私の左手に軽く口づけすると言葉を紡いだ。
「君に素敵な出会いがありますよう」
「ジーク様は身も焦がれるような情熱的な恋をしてしまって、相手にそのことを伝えるのも柄にもなく戸惑ってしまってものすごーーーく悩みますように」
なんとなく、私の心配ばかりする皆にイライラしていた私は何気なく一気に一息に言ってみた。
「おい……なんてこと言うんだ君は!」
「冗談ですよ」
ホホホ、ジークの恋愛も前途多難となってしまえとほんのり思っていたけれど。
「……人ごとだと面白がって、よりにもよってこの部屋で言葉にしてしまって、現実になったらどうしてくれるんだ」
「あら、情熱的な恋愛を経験するなら最高じゃないですか」
「後半余計なことを言ってただろう」
「これくらい御愛嬌ではありませんか。『会いたい、会えない? 何を言ってるんだ? そんなに会いたいならさっさと会いにいけばいいじゃないか』という恋はつまらないですから。ジレジレの恋をすればいいんです。圧倒的アドバンテージをお持ちなのですから。むしろ思いを伝えても空振りするくらいの悪夢を……味わ」
ジークの恋愛もハードモードに突入しろという思いがこぼれた。
ジークが立ち上がり私の口を押さえる。
「むぐむぐぐぐ」
目隠ししてても見えてるよ絶対と思える正確さだ。
こうして何のためにしたのかわからない私達の誓いの儀と呼ばれる、婚約解消の儀式は終わった。
その晩私は夢をみた。
あの部屋で縦ロールしてた小さなレーナと小さいころから無駄に顔が整っていたジークが立っている夢だった。
レーナは今日のような簡易なワンピースではなく、結婚式あげるの? ばりの純白のドレスで。
ジークも白のタキシードを着せられて真っ白な部屋にいた。
「それで、ジーク様私は何をすればよろしくって?」
鼻息荒く小さなレーナが隣に棒立ちになってるジークに聞く。
「レーナ……また君は人の話をよく聞いていなかったんだね。この部屋で婚約を誓う言葉を言えばいいんだよ」
うんざりとしたようにジークは答える。
「はーい! 私レーナ・アーヴァインはジーク様をずっと好きでいます」
右手をびしっと挙手して高らかに宣言している。
「はぁ……ジーク・クラエスは好きになるように努力します」
いっぽうジークはため息をついてと実に温度差のある誓いの言葉である。
その後、小さな私達はその場で倒れてしまうと、ムクリと起き上がり最上礼の姿勢をとった。
「ジーク・クラエスはレーナ・アーヴァインを本当に好きになったら。この婚約をどんなことがあっても、たとえ彼女に恨まれることになったとしても、彼女を守る唯一の術として破棄することを彼女との愛の証として誓います」
子供とは思えないような口調と内容を告げた。
ジークと同じようにレーナも最上礼の姿勢で言葉を紡ぐ。
「レーナ・アーヴァインは……」
その先はなんていったのか聞こえなかった。
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