第35話 血みどろの寝巻
1日寝ていると身体がようやく動くようになった。
魔子がいなくなったことでクライスト領内で動けるものが多くなったせいなのか、年越しはやはりこちらの世界でもいろいろ準備があるのか、メイドはバタバタと忙しそうで、すっかり回復した私は一人広い部屋でほっとかれていた。
といっても、私が読みそうな恋愛小説が何冊かと、たっぷりと入る大きめのティーポットに、ティーコージ? という冷めないように綿のはいったかぶせものをして置いていかれたから気づかってはもらえてるんだろうけれどね。
というか、一応令嬢だから、今日くらいは病み上がりだからベッドの上でおとなしくしてると思われてるのかも。
ドアがノックされ、入室の許可を出すと入ってきたのはシオンだった。
「あっ、もう元気そうじゃん」
「もうこの通り、すでに暇を持て余しているわ」
元気の良さを証明するためにもドヤっとしてしまう。
「ホントもう少ししおらしくしてなよ。あんなことがあった後くらい……」
さすがにぶっ倒れた後だけあって、シオンの毒舌もいささかマイルドだ。
「お見舞いに来てくれたの?」
「あっ、違うよ」
さらっと否定されるけれど、なら何しに来たんだお前である。何か袋を持ってるからてっきり、私が暇をつぶせるものか、おいしいものでも入ってるかと思ったのに。
「あっ……違うんだ」
「うん、フォルト様はレーナは疲れているだろうから訪問は今日は控えるって言ってたよ」
フォルトの育ちの良さが垣間見える。
「なのに、シオンは来たんだ」
「滞在してる部屋に掃除も入るようになったし、いつまでも僕がこれを保管しておくのはちょっとね……」
そういって、シオンが取り出したのは、金髪のウィッグと私の寝巻であった。
そうでした、シオンに私の身代わりを頼んだのだ。女性物の寝巻にウィッグが部屋にあるのがメイドにばれるのはちょっと……なのだろう。
寝巻は着慣れたのが返ってきて嬉しいかも。急遽用意されたやつだから、普段着てるやつがいいもののせいかしっくりこなかったのよね。
人が1度袖通したとか洗濯しちゃえば気にならないし、今夜はこれを……って受け取り広げてみてみると。
見事な血痕、血痕、血痕、である。それも結構な量がお腹のあたりから下半身にかけて、それはもうベットリと。
「ちょっ、何これ!?」
「ごめんね~。高そうだから僕もできれば汚さず返したかったんだけど。こうなっちゃった」
ペロっと可愛く舌を出したけれど出されたブツが可愛さを帳消ししてくるやつだった。
まるで殺人現場から拝借してきたかのような寝巻にも関わらずシオンは軽い口調である。
「えっーと……返り血だよね?」
ピンピンしてるシオンに聞く。
「あっ、知らない人の血痕だったらって気になるよね、一応それは僕の血。下洗いしようかと思ったんだけど、ジーク様に布地が高価なものだから、適当に洗わないほうがいいって言われてそのまま保管してたんだよね」
さらっと、自分の血であると認めたし、ジークも適当に洗わないほうがまで言うのならば自分の家に着いた段階で、メイドにこの殺害された人が着ていそうな寝巻を何とかするように言ってほしかった。
「問題はそこじゃないでしょ」
結構ガッツリついた血痕をみて、さらわれた先で何があったのかと震える。
「あっ、一応アリアンテ・フォン・クラエス以外はサーヴァント領の魔法省の人が捕縛していったから……」
「ごめん、何があったのかとか話が全然見えないんだけど」
攫ったらクライストに来るんじゃなかったの?
そこでようやく、私はシオンとジークがこのクライスト領来るまでに何があったかを知ることとなった。
とりあえず、途中でアリアンテという今回のレーナを誘拐してクライスト領に連れてこようとした首謀者以外が裏切って、公爵令嬢レーナ誘拐で金をせびろうとしてきてナイフをむけてきたこと。
ナイフを向けてきてたから、高そうな寝間着が切られては大変とナイフを握りこんでから男にシオンが二発ばかしいれたら寝巻がこうなってしまったこと。
そのあと裏切ったやつらをシオンとジークの二人で捕縛したこと。
クライスト領で合流するつもりだったけれど、途中で裏切られたせいで場所もわからない山奥にいたこと。
魔法省の人がやってたように、空に花火のようなのを打ち上げたらサーヴァント領の魔法省の人が駆けつけてきたことでサーヴァントにいることがわかったこと。
へたり込むアリアンテにジークは
「魔子のことは君の願いどおり蹴りをつける。そのためには私達はクライスト領に行かなければいけない。だから魔法省の職員がきたら話を合わせろ」
そう命令したそうだ。
クライスト領への帰省の途中に金目的の男たちに襲われたということにとりあえずして、面倒な尋問はアリアンテに押し付け、ジークが公爵家というのを最大限に利用し馬をかりてクライスト領まで走ったのだそう。
尋問はこれまでの経験から、やっぱり3週間はかかると思うということ。
アリアンテは公爵家ゆかりの人物だから、馬車もこのような有様だし、謝礼を相応はらうので後日クライストまで護衛も兼ねて彼女を連れてきてほしいと頼んで了承されたので、学園が始まったころにはこちらに輸送され、それからクライスト内でこっそりと罪を問われることになるとしめられた。
このことは、すでにジークの父には報告すみらしく、私の父への報告はアリアンテが実際に領へと帰ってきてからとなるそうだ。
私が本当にさらわれたとしたらヤバかった。私にナイフを向けられたらあのジークすら攻撃に転じることができなかっただろうし。
何よりシオンは私の寝間着よりも身体をもう少し大切にしてほしい。
とりあえず、彼女を罰するのはずいぶんと先になりそうだ。
それくらい魔法省の尋問というのはしつこい。
シオンはこれからリオンを案内人にして、父、フォルト、ジークの父と一緒に魔子のいた場所を視察に行くそうだ。
私も暇だから一緒にと思ったのだけど私が口に出す前に。
「寝てろ」
ニッコリといい笑顔でシオンはそれだけいうと、さっさと言ってしまった。
お留守番が確定した私は、起き上がって、ジークの様子を見に行くことにした。
家の中ならうろうろしてても、まだ許されるであろうと。
くちうるさ……心配性な人物すべてちょうど、魔子のいた場所の視察に行くし。いつまで部屋にこもっているほうが辛気臭いのだ。
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