第34話 めっちゃ怒られる

 平原で折り重なるようにして倒れていたのを発見したのはリオンだった。リオンが近くにいたおかげで、私達は一命を取り留め、ジークも後遺症などは残らずすみそうとのことだった。


 魔力を使い果たし、ぶっ倒れた私は自分一人では問題の解決がはかれもしないのに勝手に飛び出していったことを当然ながらひどく怒られた。特に魔子のいる深部まで入れる人材など限られるそうで、あそこで倒れられたら引きずってでも回収できる猛者がこの時代に生きているかどうかわからないレベルだったそう。

 もし、あそこで私が諦めず動けなくなるまで無茶をして滞在し、ジークが来ることなく討伐が果たされなければ、すぐに助けに入れるような人材はいないし食べ物も水もろくにもってない私はあそこで朽ちていた可能性もあったと言われ今さらながらぞっとした。

 吐き気とめまいとだるさくらいだからとまだいけると思っていたけれど、そのうち動けなくなる可能性など考えてもなかった。よく考えれば出会った人はすべてその場に座り込んでいてぼーっとしていたし、私もあの二の舞だったのかと思うと恐ろしい。


 父、リオン、シオン、フォルトとあっちからもこっちからも当然めちゃくちゃ怒られた。

 まだベッドから起きれあがれない私は、逃げ場などなく、皆様のお叱りがきちんと終わるまで聞くことになりました。


 そんな感じで怒られまくったけれど、クライスト領の空は昨日の吹雪が嘘のように晴れ渡り、温かな春のような風が開け放たれた窓から入ってきた。

 魔子という原因が取り除かれたため、屋敷にはメイドや従者がどこにいたのだろうという数現れ、大量の雪を熱石で溶かしている様子が窓から見えた。


 結局、お父様からあの雪の中をどうやって進んだのか問い詰められたことで、私が何気にでかいほうがいいだろうとかっぱらってきた熱石がかなりの値段することも判明。さらに怒られるのかと思ったが、私が簡単に拝借できるほどの管理の悪さに緊急時とはいえなっていたことに父は頭を抱える羽目になっていた。

 娘だったからいいものの、私が簡単に取れると言うことは別の誰かが拝借してもわからないってことだからね。




 皆様からの苦情、お小言、私が無事である確認が終わった時、私の部屋に訪問者があった。

 それはジークの父だった。

 私の寝ているベッドの前まで来ると、彼は私の前に膝を折ったのである。それが、横になっている私に目線を合わせるためではなかった。

 両膝が折られ、動けない私の手に彼の手が添えられる。

 それが、私相手に最上礼をおこなったということは、彼の口から懇切丁寧な私の身体を気づかう言葉と、お礼の言葉が飛び出したことでわかった。


 ジークのほうは、自分の限界を超えても這って進んだこと、私という第三者を使うことで本来では入れもしない深いエリアに入ったことで内部に深刻なダメージを負っていたそう。他の部分はともかく、目は特に重症で治癒魔法のあるこの世界でいまだに包帯に覆われ2週間ほどは、状況をみての治療となるそうだ。

 もとのように見えるようになるのか?という質問に関しては、手当までがはやかったことがよかったと言われたことから大丈夫そうでほっとした。




 私の回収のどさくさでしっかり魔剣の元となる、剣は回収されたようで。

 どのようにして、魔子を討伐したのかは公になることはなかった。

 ジークの父はさすがに、どのようにして倒したのかと私に確認してきたけれど。それに対しては『助けた方法は公表しないことが、助ける条件となっており、ご子息もそれを納得している』と父が言うことでそれ以上は詮索をあっさりと諦め引いてくれた。



 魔子の討伐は過去魔剣を使い討伐されたという実績があったことで考え方の柔軟性を失わせる原因となっていたのだと思う。

 魔剣が相応の力を持つことも相俟って、魔剣を用いないと倒せないのではと思わせるには十分だったのだと思う。

 完成した魔剣と未完成の魔剣では吸える魔力量の限界値が違う。

 だから、当時ユリウス・アーヴァインは未完成の魔剣を用意すれば、魔子の放つ魔力に充てられても魔剣よりも折れる確率が低く、魔力を剣にまとわせることで倒せることに気がついた。

 だから単身であちこちの魔子の討伐を行い、その副産物として、さまざまな属性の魔剣を手に入れ己の身体に収納した。 


 でも、それは同時に、人を大量に殺さずとも、魔子がいれば魔剣が作成できるという事実だった。

 魔剣を複数本次世代に残せばユリウスの不思議な刀身の色が戦う相手の属性に合わせてかわるからくりは他の領の魔子を討伐した実績からばれてしまう。

 だから魔剣は次世代に残さなかった、いや、残せなかったのだ。

それでも何かあった際にと自分の遺産として数々の魔剣の依りしろとなる刀や剣を残した。

 貴重なものとなり、使われることなどないと見越していくつも。

 もし、アンバー領に次に魔子が現れた時、藁にでもすがる気持ちで遺産の剣を手に取り魔子の討伐に繰り出せば、子孫には魔子討伐のからくりもばれると。


 魔子が誕生する方法は、戦だったと父は私に告げた。

 領地で沢山の本来死ぬはずのなかった寿命より早く死んだ人々の魔力は死ぬと地にながれ、地脈を流れ一つの箇所に集まる。

 たとえ平民一人一人の魔力量はたいしたことなくとも、その数が膨れ上がれば、地脈をながれ地脈にとどまる魔力の力は膨大になる。

 地脈にとどまりすぎれば、魔子ができ、とどまりすぎた魔力を量などお構いなしに放出する。でも、とどまりすぎた分の放出がおわったとしても、放出は続く、地脈からの魔力をずっとだしつづけるのだ。

 魔子を退治するまでは……。


 討伐を終えたユリウスは、その領の名家を集め毎回話をした。

 この特殊な討伐ができるのは自分くらいだろうこと。

 このまま戦を繰り返せば、また地脈に大量の魔力が流れ、魔子ができる時が来ること。

 次の討伐の時私は生きていない、領地が大事だというならば矛をおさめ戦をやめろ。このまま続ければ取り合う領地がなくなるぞと。


 こうして、表の歴史とは関係のない裏でのやり取りで、戦いは終息へとむかい、戦いのない国へと切り替わったのだったと父が他の領へと連絡し事の顛末だった。




◆◇◆◇


 父は私が深くかかわったから詳細を教えたが、ユリウスの伝えなかった真実は墓までもっていくと言っていたが、私は、このことを一冊の本にしてまとめることにした。


 このような重大なことは、後世に残しておかないといけないのだと思う。

 同じことが起きた時に、解決方法を探し、本を積み上げた人が解決方法にたどりつけるようにあの図書館の秘密の部屋に。

 

 あれほどの本を読みあさり、本を積み上げても救いにつながることはなく、報われないなどということはあってはいけないのだ。

 あの膨大な量の本に目を通し、必死に救われたいと願う人に対して。



 あそこにある、貴重な本の数々はきっと先人達が私と同じように考え、そして一冊ずつ増えていったに違いない。

 表には決して出せない、歴史の中にあった本当の真実と膨大な知識を。

 あの部屋にはいる権利を手にした、後世の選ばれた『真実の探求者』のために。






 魔子がなぜできるのか、魔子の討伐方法。

 ユリウス・アーヴァインが各地の魔子を倒したという表に出せない歴史。

 今回のユリウスの死後現れた魔子退治のことが私の手によって記された。


 優秀なリオンは未完成の魔剣をみたことで、私を拘束する際に使用したものと同じ材料で作られていることを割り出した。

 魔剣の刀身の材料、切りつけることで魔力を吸い、剣にとどめる方法や魔力がたまり刀身の色が変われば体内にしまわれるための術式なども記入された。

 

 

 そして最後に、私は秘密の部屋にあった他の本同様、名前と前任者が必ずいれてきた言葉を最後に入れた。



 知識を得た者による次なる悲劇を繰り返さないことを望む

 アンバー領 公爵令嬢レーナ・アーヴァイン




 願わくはこの本を誰も探さず、開く日などこないように願いをこめて。

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