第33話 長い冬の終わり

 私の体調はすごく悪かった。めまいはするし、吐き気もある。これが強い魔力の影響なのだろうか。

 それでも、剣の入った重いリュックを置いていくわけにはいかないから背負って歩く。

 リュックの中身が中身なので重いのは当然なのだけれど、足取りはどんどんと重くなっていった。



 目的の場所はここだってことは、ついてすぐにわかった。

 そこには丸い丸い深い紫色をした塊があった。両手に抱えられそうな程の思っていたより小さい塊はそして近づけば近づくほど、気分が悪くなったことからこれが魔子だと本能的にわかる。

 丸い塊はまるで大地に根を張り栄養をその土地から吸うかのように地面につながっていた。



 リュックから適当な剣を一本取り出すとさやから取り出し、両手で握り息を吸いこみ魔子に切りかかる。

 しかし、剣は通らなかった。

 硬いものにぶつかった感じがしたが、刃は通らない、力を込めるが私では刺さらないどころか傷すらついていない。


 そのうち、握っていた剣のほうが容量を超えたのか、紫に輝きしばらくするとパンっという音とともに粉々に崩れた。

 もう1本取り出してやってみるがやっぱり私の持っている剣が魔子には通らない。


「何で……どうして……。魔力の低い私では攻撃が通らないの?」

 ここまで来たのに倒せなかった……。



 とうとう気持ち悪さが限界まで達した私はその場で倒れ込んだ、世界がぐるぐると回る。




 どのくらいの間そこで横たわって終わりのない、苦しさと戦っていただろうか。

 名前を呼ばれたことに気がついた私は身体を起こして声の主を探した。



 まさに這ってでもこちらに向かってきている彼がいた。

 私は荷物をその場に置いたまま、なんとか身体を起こしジークのところに向かった。

「遅れた、大丈夫かい?」

 かすれた声で、私よりも大丈夫そうではない彼が、私にそう聞く。

「めまいと吐き気があるからあまり大丈夫ではないです。すぐそこにそれらしいものがいたけれど。私ではそば行って剣をあてても剣は通らなかった」

「すまないが、私ではもうこれ以上は這ってでも進むことは難しい。どうかそこまで連れて行ってほしい」


 ジークの脇の下に手をいれて、引きずる。足場が細かな紫の砂だったことやジークがまだ細く少年と青年の間の体系だったこともあり体格差はあるけれど、ひきずって連れていくことができた。

 それにしてもジークの顔色はひどく悪く、真っ白で表情も苦しそうだけれど大丈夫なのだろうか……。


「この剣で倒せるのか?」

 ジークは私が剣を取り出したのをみてそう言った。

「ユリウス・アーヴァインであれば討伐できたようです。でも、このように私では通らないのです」

 ちゃんと策を用意してきたことを伝えるために、ユリウス・アーヴァインはこれで討伐できたのだということを教える。

 しかし、私の握っていた剣は、案の定魔子には通らず、ガッと硬いものにぶつかった感覚がしてしばらくすると剣は紫に色が変わり、そしてパンっとはじけるような音とともに砂へと変わった。




 ジークは今も私が運んできたままの状態で横たわったままである。

 大丈夫だろうか……。

「魔力はこめているか? いや、レーナがこめるより私がこめたほうがいいだろう。ただ今目があまり見えていないから狙いが付けられない。君が私の代わりに見て狙いを定めてくれ」

 違う剣を取り出して鞘を捨て、ジークに剣を握らせ、自分も手を添える。

 ジークが横になっていて起きれそうにないから、真上からじゃなくて真横からついてみよう。


 ジークが剣に魔力をこめだしたのか、あたりの温度がさらに下がる。

 何も切っていないのに、刀身が紫に変わった。

 グッと塊に剣先をあてた。



 今度は弾かれることはなかった、ゆっくりと剣が通る。

 ゆっくり、ゆっくりと。

 剣が刺し貫くたびに、気持ち悪い気持ちやめまいが薄れていく。

 そして、急に不快感が0になったと感じた瞬間。

 目の前の塊はパラパラと砕け散った。




 砕け散るのと同時に、その辺一帯にこもっていたような不快な魔力も散っていく気がした。

 温かな風を感じる。

「やった! 倒したんじゃないかしら? 吐き気もなおった! 魔力を沢山込めないと刺し貫けなかったのね。あっ、ジーク様ごめんその辺に私吐いたのがあったかもって今思い出しました」

 ジークは何も言わない。

「ねぇ、ジーク様?」

 剣を握っていたジークの手が緩み離れ地面に落ちる。

「ジーク?」

 返事がないのが不安になって地面に倒れている彼の顔に触れる。



 彼の頬は冷たかった。

 頬は冷たくなることもあるんだっけ? うん、あるわよ。寒い時頬だって冷たくなるわ。

 瞳は閉じられているし、私は砕け散った瞬間体調が万全に戻ったというのに、まったくジークは動かない。

 私は震える手で、彼の口元に手を持っていく。

 今にも止まってもおかしくないほど、弱弱しい息を吐いていた。




 思い返せば、あのジークが這いつくばって進んできていたし目もよく見えないといっていた。彼にとって近づけるラインの限界はとうに過ぎてさらにそれすら無理をして進んでいたのではないだろうか。



 私は今何をすればいいの? 私に何ができるの? 回復なんてできない……。

 そうだ、魔力をジークに分けよう。先ほどジークは大量の魔力を使ったのではないかという結論にたどり着いた私は躊躇することなく彼に唇を重ねた。



 私の魔力ありったけを彼に…………………………。

 

 



 身体の魔力の大半を急激に自分の意思で失った私は意識がなくなった。

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