第25話 婚約した理由
リオンだけは魔子が何か知っていたようで、眉間に大きなシワを刻んでいた。
「リオンは何か知っているの?」
「えぇ、簡単にいえば魔力の塊のようなものです、膨大な魔力量があるにも関わらず魔力の制御が赤子のようにできず、魔力を放出し続けることから魔子と呼ばれているそうです」
「塊……どんな形をしているの?」
恐る恐る疑問をぶつける。
「私も魔剣を譲り受けた方から聞いた位なので、実物を見たことはございませんが、伝承では人の形をしているそうです。ですが人の形をしていたとしても人は300年、400年と生きませんから、人ならざるモノとしか言えませんね」
「過去の討伐についてリオンは何か知っているのか?」
リオンが魔子のことを魔剣のかつての持ち主からきいたということで、ジークが切り出してきた。
「何人で挑んだのかまでは詳しくはわかりませんが、10本近くの魔剣が折れてようやく仕留めたことがあるとだけ知っております」
「10もか……そうか…どうりで……」
魔剣一つを作るのに、何千、何万の人がいるとちらっと言っていた。
その集大成である魔剣が10本折れてようやく何とかできるモノ……。
国は魔剣を作ることを厳しく制限した。
1本つくるのに何千、何万もの人間が死ぬわけだから許可していれば莫大な死人がでて人などいなくなるだろう……禁止されて当然なのかもしれない。
ジークの話では、かつてクライストにも魔剣が3本あったそうだ。
それらすべて、魔子の討伐や魔力を相殺させるために使用した結果。見事魔力を吸い過ぎて折れたそうだ。
「リオン、どなたか魔剣を持っている方を他に知りませんか?」
「お言葉ですが、レーナ様魔剣が折れるとわかっていて挑むような猛者はいないと思います。私の持っている1本はレーナ様がやれと命令するならばやりますが……無駄に1本をだめにすることになると思われます」
「やはり折れる覚悟で挑んではくれないよね」
もっともである、SSレアの装備だめにするけど挑んでねってことにそうそう挑めるはずもないだろう。
「えぇ、現状魔剣を所持していると公表しているのは私の他に5人ほどいますが、魔剣持ちであると公言しているということは、とられない実力と自信があるわけで、私の時のようにねじ伏せて協力のようなことはそうそう無理です。公表されてない魔剣持ちもレーナ様のようにいるでしょうが、実力に自信がないから公表しないのであって、表舞台には引きずり出すことは不可能だと思われます」
「過去討伐されたのはなんでなの? 魔剣が惜しくはなかったの?」
「その時の魔子の発生場所は王都だったそうです。魔剣持ちも今よりはいましたし、近づくことも困難な魔力の塊の敵相手に力試しをしたいというアホがいつの世もおりまして。それも相まって多くの刀身が折れましたが無事打ち取ったそうです」
なるほど、力試しだったというわけか。
その結果というのをきっと今魔剣を所有している人は知っているだろうし、挑むはずもないだろうってところかな。
ん? まてまて。
確かあの女は私に助けろと言ってきていた。
私の死蔵した魔剣をつかえということなのだろうか……
出せるもんなら宝の持ち腐れだから譲ってもいいけれど。
「なるほど、そういう理由で討伐が行われたのか」
リオンの話を聞いていたジークがいつもの考えるポーズでそう答えた。
「えっとジーク、私を襲った女性は私の中にある魔剣が欲しかったということでしょうか?」
疑問をスッキリさせるべく質問するとジークは首を横に振った。
「魔子は今からずいぶんと前、それこそおとぎ話に出てくるユリウス・アーヴァインの時代にもアンバー領に現れたそうなんだ」
まさかのここでレーナのご先祖様キターである。
「うちの領に残った資料によると、ユリウス・アーヴァインから魔子がアンバー領内の血脈に現れたから討伐するのにそちらの魔剣所有者に助けてもらえないか? という要請があったそうだ。だが、魔剣は本数に限りがあるし、いつ自分の領土内にできるかわからない。だから、その理由を告げ断ったそうなのだ」
「そんな話知らない!」
そう言ってきたのはリオンだった、魔子はアンバーにも表れたのか。
「知らなくて当然なのかもしれないし、もしかしたら魔剣持ちはアンバー以外の者はかかわっていないのかもしれない。なにしろたった三か月ほどしたら。もうあの話は解決したと言われたそうだ。詳しい詳細は分からない。ただ、ユリウスの持っていた魔剣は変わった魔剣だったそうで、敵の属性の相性に合わせて刀身の色が変わったそうだ。だから、特別な魔剣だったのかもしれない」
ジークの話によると。
その後何度聞いても、討伐方法は教えてくれなかったそうだ。
それまでいい関係を気づいていたにも関わらず、助けの要請を断ったのだから仕方ないのかもしれないと思って月日がずいぶん流れユリウスの名がおとぎ話に出てくるようになったころ、クライスト領に魔子が現れた。
知っていて秘密にしているのか、伝承されなかったのか、当時のアーヴァイン家当主に助けを求めたけれど答えはノーだったこと。
それから、クライスト領で表向きは、魔子を倒したことにしたこと。
本当は倒せておらず、倒す方法もわからず、魔剣を1本ずつ駄目にし、クライストでは今日まで来たらしい。
幸い公爵家クラエスは魔力に秀でていたし、同等の魔力をぶつければかなり拡散されることはすぐにわかった。
だから、代々魔力量の高いものはクライスト領から出ることは許されず、一生を魔子の魔力を散らす終わりの見えない冬との戦いになったそうだ。
今、その役目をしているうちの一人が私を襲った女の父、ジークの叔父にあたる人物だった。
そして、学園を卒業すればその役目にジークも加わること。
無茶な魔力を使った代償で、代々役目を担うものは短命だということ。
最後にとても言いにくそうに、彼は言った。
「私とレーナが婚約したのはそれが理由になる」
直系の男は、跡取りとなる。
だからこそ、アーヴァインに直系の女が産まれるのを待っていたこと。
産まれたとしても年が離れすぎていたり、年が近い男がクラエス側にいたとしても直系から離れ過ぎていると恋仲にでもならないと降嫁してきてくれない。
そもそも事情があるクラエスと事情がないアーヴァインでは相手に求める条件が違う。
恋仲になれず嫁にもらえない、そんなことがずーっと続いていた。
そこへきて、待望の直系の女、それもクラエスの直系と年も同じ。
そして、レーナはジークを気に入ったのだ。
レーナとジークの婚約に関してジークの意思などすでに関係などなかったのだ、彼は言葉を選んでいるが。
ジークはレーナと婚約せざるを得なかったのだろう、自分の意思とは違っても……
ユリウス・アーヴァインが何とかしたように、アーヴァインの直系ならなんとかできるのではないかと長い冬に囚われた皆が思っていた。
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