第26話 メリットと理由

 その後もジークは言葉を選んでいるようであったが。家のための婚約で気持ちはなかったということから、これまでのレーナへの態度もすべて納得がいく。


 好きでもない女に気に入られるようにという生活が彼を待っていたのだ。

 幸せそうなレーナとは正反対にジークはすべてを親に決められていた。それと同時に、もしかしたら自分と結婚した後レーナはどうなるのか怖くなったそうだ。だから顔を覚えない努力をした。親しくなれば切り捨てられなくなるのではないかと子供心に考えたそうだ。

 でも、ジークが本音の一部を私に聞かれてしまったことで状況は一変した。婚約破棄されたら解決の糸口すらつかめていない自分はどうなってしまうのかと、とにかくレーナと深く関わる理由ができてしまったのだ。



「一つ質問をよろしいですか?」

「どうぞ」

「ジーク様から婚約を破棄するなんてパターンは万が一にでもあったのでしょうか?」



 ゲームではジークのほうから、大衆の面前で言い逃れできない状況で婚約破棄が告げられる。私の友達であるアンナ、ミリーも次々とジークの手によって退学となったそのあとで。

 断罪イベントではレーナがいくら取り繕っても、縋っても破棄は覆されない。

 結局レーナは最終学年、卒業式まであとわずかにも関わらず学園を去る。理由が理由の婚約破棄だからその後のレーナは別の人との結婚も絶望的となる副産物付きで。


 断罪イベント前に、ジークはヒロインに跪き言うのだ。

「これから起こることで、きっと私の嫌な面を見ることになるし。私の家に入ることで君はいつか後悔するかもしれない」

 それにヒロインはこう答えるのだ。

「あなたがいればそれだけでいいの」と。

「君にあげられるものは私だけだが、どうか許してほしい」

 そう言って断罪イベントに入るのだ。


 ゲームではきちんと破棄された。ジークの口ぶりだと、婚約が破棄されればジークはただではすまないのではないだろうか。だからこそ、ジークがなぜ破棄をしたのか知りたい。




「私からの婚約破棄?」

「そうですそうです」

 口元に手をやりお決まりの考察ポーズである。

「それは難しいと思う、私が破棄をしたいと言ったところでそれは家族にもみ消されて通らないだろう」

 なるほどなるほど。

「万が一ですよ、ジーク様が婚約破棄したいな~どうしてもしたいな~レーナ破棄してくれないしなって場合どうしますか?」

 えっ?そんなことまで聞くの?と若干めんどくさい顔をしていたけれど、再びジークは考察する。


「もし、破棄するなら。公衆の面前で覆りようのないレーナが私の婚約者にふさわしくない証拠を集めて提示し破棄しようと告げないといけないだろうけれど。私がそれをするメリットも理由もない」

 そう、そこなのです。ジークが破棄するメリットがないということは、メリットを上回るそれでも破棄したい理由があったはずなのだ。

 それが知りたいのに、私と婚約をそれでも破棄したいという気持ちになったことがない彼には答えようのない質問だったようで困らせてしまっただけだった。



 空腹で帰らせるわけにはいかないですからと、リオンが作ってくれた軽食を食べて。

 ドレスの言い訳として苦しすぎる、雪に思いっきり転んだとジークと二人で言い張り。

 ダンスパーティーは終わり、短い短い冬休みとなった。すっかり忘れていた、預けたコートとジークへの誕生日プレゼントは次の日届けられた。



 降り積もっていた雪は、除雪されて隅のほうによけられていた。

 さて、これからどうしてこの問題を解決するべきなのか考える時間がやってきたのだ。


 ジークが迎えに来たので、私たちは秘密の部屋へとむかった。



 本を読んで得た知識の要点を教えられるのかと思いきや……。


「今晩おそらくレーナは何者かに拐われる」

「…………ええええぇぇぇぇ!!!」

 思っていたのと違った。

「止めることは叶わなかった」

「いやいや、叶わなかったじゃないわよ! 何諦めちゃってんのよ」

 思わず口調が碎ける。

「先日レーナを襲った女、アリアンテを諦めさせるのにレーナを一度連れてクライストへ帰ると約束した。休みに入るまでにレーナと話を穏便につけるからと言っておいたから……大変申し上げにくいのだが、今日が期日だ」

 大変申し訳ないって顔をしているけど、だからって許されることではない。

 おいぃぃぃぃぃとんでもない約束の上で保証されていたつかの間の安全だったんじゃないか。


「どうしてその様な大事なことをもっと早くにおっしゃってくれなかったんですか!?」

 公爵令嬢という立場などすっかり吹っ飛んだ私はジークの襟元を掴みあげがくがくと揺する。

「すまない……」

「もう、時間がほとんどないじゃないの。どうするつもりだったのよコレ」

 すまないですむ話ではない。



「時間さえ稼げば、書庫のどこかに魔子の手がかりになるのがあるのではと思って……」

「バカぁぁあ!!」


 こんなときは、とにかく信頼できる人に相談だ。

「レーナ! 何処に「お前も来るんだよ」

 ジークの手を引きまず向かったのはアンナとミリーのところでした。




 私の話を一通り聞いたアンナとミリー。ミリーのほうがおずおずととあるものを取り出した。

「前回のシオン様の女装のときに納得がいかなくて、こんなの発注していたのですが……」

 ミリーが取り出したものは今回の作戦にとても使えそうな物だった。

「なんてもの作っていたのよ……」

 私がそういうとエヘヘっとミリーが照れて笑う。でも、これでいけるシオンが納得してくれればとつくけれど。

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