第24話 過大評価

 背中に衝撃が走ったと同時に痛みも一瞬あった気がするが、一瞬で治されたのだとすぐにわかった。

「…………っ」

 私の回復を最優先したのだろう。

 私の後ろにはいり庇ったリオンは苦しげな声を出した。

 しかし、それは直ぐに治癒で治される。



 私がよこしまな気持ちで思いのほか魔力を使ってしまったせいで、保護者達が感知したのだろう。



 とにもかくにもセーフである。

 目を閉じていたから何があってこうなったかよくわからないけれど、私が壁にぶつかる前に体をいれてクッションになる+治癒をしてくれたおかげで大した痛みを感じることなく終わった。

「リオン、ありがとう」

 ほんと助かった。

 後ろの壁は少し崩れてパラパラしているし、私がぶつかってそのまま放置されたと考えたらぞっとする。

「まさかレーナ様がサシでジーク様と互角にやりあっていたとは想像しておりませんでした」



 ん?



 ジークは私を吹っ飛ばした時に魔力を少し使ったようで意識はあるものの、まだ立ち上がれていない。

 その顔にはリオンが私を受け止めたことで怪我がないとわかったのか安堵の表情が浮かんでいた。



 私は魔力切れの症状が少し出ているし。

 対するジークは私よりも魔力量が多いくせにもかかわらず、もう立ち上がることすらできないほど魔力を消耗している。

 その上吹っ飛ばされた私と状況証拠だけをみると、まるでジークとやり合ったようになってしまっている。


「もう、今のジーク様に勝ち目はありませんよ」

 リオンがそういうけど、私とジークやり合ってないから大きな誤解が一つあるから。

 って、遅れて到着したシオンも状況をみてリオン同様の誤解をしているようで、リオンもシオンもピリピリとしており一発触発状態だ。

「ちょっ、二人とも落ち着いて」



 私の制止よりも先にシオンとリオンが動いた。

 ジークはまともに動けないからガードできないだろう。

 ヤバい。

 止めなきゃ、えっとえっと!!!!!



「おすわり!!!!!!!!」

 私の声が響く、強い気持ちがこもったわかりやすい指示は盟約者が私の命令を拒絶するとか考えさせる暇もなく二人の動きを命令にしたがい止めさせた。

 エンジン全開の身体強化が己の意思関係なしに解除され減速しその場に正座で座り込む。

 雪があったおかげで衝撃は和らいだのだろうが、二人がいっぺんに戦闘態勢から解除され座る姿は盟約の縛りをこれでもかと実感させた。



 ハァ!? アンタ何すんの? と言わんばかりにシオンが私を睨む。

 視線で射殺されるのではないかと思うほど鋭い無言の意見が伝わる。

 リオンのほうはというと、命令できつく止められたことに何やら怪しい扉が開きかけている気がする。

 エンジン全開でもう止められないぞというところから、自分の意思とは関係なくストップがかかるという人生初の体験にMの本能が震えていたらどうしようと思う、静かに私をぼーっとみていることが違う意味で怖い。



「まず、誤解が一つございます。私とジーク様は一戦交えていたわけではございませんからね」

 リオンとシオンを交互にみて弁解する。

「御冗談を、学園でトップクラスの魔力量を誇るジーク様の魔力をここまで消耗させるだなんて一戦交えてないならば逆に何させたんですか」

 リオンが冷静に突っ込む。

 ググっ冷静に言われるとなんて返せばいいのか悩む。


「い……いろいろありまして、とにかく説明は後です後、寒くて死にそうです」

 早く戻ろう温かい部屋にこのままじゃ死んじゃう、というかこの恰好で私もジークもどうしよう。

 転びましたでごまかせる?


「はぁ……私の部屋にいったん移動しましょう」

 リオンの提案で私はシオンの肩に米俵のように担がれ、私より体格のいいジークをリオンが背負って身体強化で移動するもんだから、風を切る速度のせいもあり余計に寒い。



 教師の寮なんてあったんだ。

 リオンは手早く風呂の準備を始める、そのままでは風邪をひきますから着替えてください新品ですから一応といわれ風呂が沸くまでの間大きな衣服をかりて過ごした。

 ジークのほうも、服を借りたようだ。

 レディーファーストということで、先にお風呂をいただきようやく生き返った気持ちになる。


 そして、私の今回のドレスも死んだ。

 一応、ジークにお世辞で褒めてもらったけれど、ダンスはジークとしか踊ってないし、料理に至っては一口も口にできないまま私のダンスパーティーは終わった。

 正確にはまだダンスパーティーは続いているんだけど、今日はもう戻るのは不可能だ。




 当然リオンもシオンも何をしていたのかの追及をしっかりしてきた。

 ジークは

「魔力切れして、視界が揺らいだところまでは記憶があるのだが、全身に鳥肌が立つような耐えがたい嫌悪感があって無意識に振り払ったらレーナを吹き飛ばしてしまって……。すまない」

 といって頭を下げてきた。

 なんとなーく何をやらかしたのかほんのり察しがついたであろうシオンの視線がひどく痛い。




「とにかく詳しく話を一度しましょう。リオンとシオンがこの場にいてもかまいませんか?」

 とにかく、話を聞くべくジークに切り出す。

「二人とも君の盟約者だからな。わかった……どこから話せばいいだろうか」

 リオンが入れてくれた温かい紅茶を飲みながらジークがゆっくりと口を開いた。




 まず、ジークは学園を卒業したら自分の意思関係なしにクライストに戻るはめになるということ、学園生活はジークにとって唯一の人生でクライストから離れることができて自由にできる時間だったということ。

「クライストには……魔子がいる」

 その理由としてジークは神妙な面持ちでそういったのだ。

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