第9話 漆黒の訪問者

 ジークに部屋に送ってもらった、まぁ、部屋はお向かいになったからジークも自分の部屋に帰るついでなのだろうけれど。

 夜遅かったことで、当然私の部屋ではメイドがひどく心配していたし、私を探してくれた人もいたようだ。


 フォルトにシオン、リオンも私の捜索に加わってくれたようで皆から怒られた。

 そんな状況でジークがしれっとこういったのだ。

「連絡なく遅くなってしまい申し訳ありません。一緒にいた私のミスです。事件の当事者になったことで少し相談を受けていたのです。悪いのは時間を考えなかった私なのでレーナを責めないで欲しい」

 と。

 もう、空気を吸うように嘘で取り繕うのが上手である。

 私はうっかり顔に出そうになるのをたえた。


 大きな事件に2度も巻き込まれ、学園では2度攫われ、目の前で人が氷漬けになるのを見たということは、皆知っていたため何も詮索してこなかった。




 疲れた、すぐに寝たい。お手入れもそこそこに、ベッドに横になった。

 すぐにでも寝ないと朝になってしまうと思うのに、私には寝ることは許されなかったのだ。

 せっかく部屋を移動したというのに、窓は出入口じゃないってーの!

 まだ、暑いからと開いていた窓から訪問者がいたのだ。

 公爵令嬢の寝室だぞ、セキュリティー考えてくれ全くである。



「こんな時間に何の用です?」

 明かりを消して時間がたってないので目が暗闇に慣れてない。

 月も雲に覆われているのか月の明かりは部屋に差し込まない。

 それでも、部屋に誰かがいるのはわかるけど、誰がいるのかがわからない。

「ごきげんよう、レーナ様。いくら高いところに部屋があるからって、窓を開けたまま寝ちゃうのは物騒だよ」

 トンっと何の躊躇もなくこの時間に女性の寝室に入ってきた。

「はぁ、シオン。普通の人は窓から出入りしようとは思いませんよ。もう今日は眠いので明日にしてください」

 そういって、柔らかなタオルケットを被る。



「用があるから来てるに決まってるじゃん」

 そういって、私のタオルケットは一気にめくられてしまう。

「ちょっと!」

 さすがに私だってまだ子供とはいえ女性である。

 これはさすがに抗議しなければいけないと体を起こして私は固まった。二人分の体重でベッドが軋む。

 暗闇で彼の表情は見えないけれど、私の足を踏まないように上に跨っているのはわかった。

 嫁入り前に何てことしてくれてんだである。


「シオン……あのねぇ。こういうのは女性にしたらダメなのよ。全く、もう何の用なのよ、こんな時間に」

「ねぇ、ジーク様にした相談って何?」

 そういう体になってるんでした。

「まぁ、いろいろ……です」

 眠さもあって答えがつい適当になってしまう。

「……めんどくさくて適当に答えてるでしょ」

 私の心をズバリと見透かされた。

「もう、わかったから話すから日を改めてください。とにかく明日は学校があるから寝かせて」



 機嫌の悪そうな顔をしていると思った。

 闇に慣れた私の瞳がとらえたのは、寂しそうな顔だった。

「どうしたの? 何かあったの? そんな顔だと私のこと心配してるみたいじゃないの」

 反対に私がシオンに質問する。

 シオンの顔が一瞬で寂しそうな顔から、いつものムッとしたときの顔に戻る。

「あのさ、僕を本当になんだと思ってるわけ。血も涙もない悪魔とでも思ってんの?」

 シオンの手が私の背に回る。

シオンが膝立ちのままのため私の顔が彼の胸元に埋まる。





「心配した」




 小さな声で告げられたことは予想外の私を心配する言葉だった。

 いや、確かに巻き込まれる、攫われる、吹っ飛ばされる、吹っ飛ばされて地面を無様に転がる、剣突き刺さる、拘束される、魔力切れで倒れるとこの短期間でいろいろありすぎて心配かけっぱなしだった。

 今回もきっと、シオンだけではなく皆私のことを必死に探してくれたのだと思う。

 ジークのおかげでうまくごまかせてよかったと思っている場合ではなかった。皆に多大なる迷惑をかけていたのだ。

 それを眠いからと、部屋までわざわざ口は悪いけれど心配してきてくれたシオンにたいしてひどい態度だった。

「心配かけてごめんなさい」

「ほんとだよ全く。弱すぎて使い物にならないんだから、やばいことに首を突っ込まず、ポンコツはあの焦れ焦れの恋愛小説でも読んで、アンナ様とミリー様と一緒に理想のヒロイン探しでもしてればいいの。魔力使う間もなく瞬殺されたら、僕もリオンも助けに行けないんだから」

 また、ポンコツって言ってるし。



 シオンの体が私から離れて彼の手が私のよく手入れされた髪を触る。

 手入れをしっかりとされた髪はサラサラとシオンの手から零れ落ちた。ジークもだけど、長いと触りたくなるのかしらとシオンの顔を見上げた。

 不機嫌な顔で触っているのかと思ったのだ。

 愛想笑いでもない、面白がっている笑いでもない、手から零れ落ちる私の金の髪の1本1本すら愛おしいと言わんばかりに甘く甘く彼は私を見つめていた。

 私の視線に気が付くと表情はいつもの顔になる。

「…………シャンプーってさ、高いの使ってるの?」

「えぇ、まぁそれなりの値段のものだと思います」

 という、まったく今回のことに関係のない話をした後、シオンは窓から去っていった。


 私は暑いけれど窓をきちんとしめて、寝室の扉をあけて寝た。

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