第7話 秘密の部屋
いつ帰れるのかとベッドに腰をおろしてすぐだった。扉を誰かが触ったのだ。
リオンが部屋を後にして15分ほどと時間があまりたってない。
早めにリオンが戻ってきてくれてよかった。一晩閉じ込められたらどうしようと思ったけれど帰れそうと、扉越しに声をかけようとしたけれどやめた。
ドアを開けようとしたのか扉がガタっと音をたてたからだ。ドアは当然施錠してあるため開かない。
リオンであれば、きっと鍵をかけていたことに気がついたとしてもすぐ開けて入ってくるはずなのに扉を触る人物はすぐには鍵を開けない。
リオンではないと気がついた私はまたベッドの下に入り隠れこむ。
書類で気になっていたこともあるし、せいぜい閉じ込められたとしても明日の朝にはリオンの業務があるから開けられることだろうから。
命大事にである。
ドアはホンの少しガタガタされたあと、一瞬光って開いたのだ。引き戸がカラカラと開く音が室内に響く。
私は息をひそめた。
入ってきた人物は迷うことなく、先ほど私がみた書類が入っていたところを漁る。
ベッドの下から覗き見ると、男子用の制服が見えた。
これで、部屋に入ってきたのはリオンではないと確定した。
何かを探しているようだけどそれが見つからないみたいね。
もし、探しているものが先ほど私が見つけた書類なら、一部の物は私が今持っていて、残りの書類はリオンが持って出ていってしまったからこの部屋にはない。
とりあえず書類を4つ折りにして貧相でスペースに若干の余裕がある胸元にねじ込み隠す。
あとは、ばれずに相手の顔が見られたらと窓をみた。
窓ガラスにちょうど棚を漁る人物が映った。
銀の髪だった。銀の髪で学生服を着ている人物。
私は顔が映らないかとガラスを注意深く見つめる。
棚を漁る男の顔が棚の下のほうを探そうとして一瞬ガラスに映った。
それは間違えようのない人物だった。見たことない必死な形相で何かを探す人物。
その髪の色は学園でも少ない銀の髪で、一度みたら忘れられないほどの整った顔だち。
ジーク・クラエス私の婚約者だった。
「此処にはないか……」
棚を一通りチェックしたのか彼はそう呟いた。私が聞きなれたその声で。
どうして? 何をしているの?
そう呟きそうになるのをグッと堪える。
出ていって大丈夫? 本当の本当の大丈夫なのか……
棚を漁る顔は必死だった、そんな顔みたことが一度もなかった。
夏休みの間あれだけ一緒にいたというのに、彼を信じていいのか不安で私はネックレスをいつものように握りしめた。
棚を一通り漁り終えたジークは何事もなかったかのように部屋を後にしようとした。
しかし、私はついてなかった。
部屋を出る前にジークがもう一度部屋を見渡したのだ。
身体をできるだけ小さくして私はベッドの下でばれないようにただそれだけを祈った。
祈りはむなしかった。ゆっくりと足音がベッドへと近づく。
鼓動が速くなるのがわかる。
足音がベッドの横で止まる。駄目だ……ばれている。
どうする、どうしたらいいの。
「女子生徒か……」
ジークがそうつぶやいたのだ。あぁ……。ごっこ遊びの関係で私も今日は制服だった。
しっかりとばれている。
「ねぇ、そこから出てきてくれるかい?」
その声は先ほどの必死さなど伺わせないほど、ひどく柔らかで甘い。
いやいや、これどう考えても罠のパターン!
罠だとわかっている、けれど、今の私には出ていくしか選択肢が選べない。
「警戒しなくてもいい、先生からとってきてほしいものがあると頼まれただけ。だからそんなところに隠れてないで出ておいで」
いやいや、絶対頼まれてなんかないでしょと思うけれど、それを言うわけにはいかない。
「今は君に危害を加えるつもりなどない。名前にかけて約束しよう。これなら大丈夫だろう?」
前回約束した際も確かに期限を決めてジークは約束を守った。
とりあえず、『今は』というところがかなり引っかかるが、今出ていった際に、危害を加えられることはないだろう。
今後『は』どうなるかわからないけれど。
私は意を決して、ジークが立っていないほうに這い出る。
「っ……」
ベッドの下にいたのは誰かわかったジークが息を飲んだ。
「問答無用で攻撃しなくてよかったですね。私に危害を加えれば、すぐにリオンがすっとんできたでしょうね」
とりあえず、攻撃したらリオンがくるぞと必死に匂わせ、ジークを見つめた。
「レーナ……ここで今、君には逢いたくなかったよ」
「どういう意味かわかりかねます、ジーク様」
「場所を変えようレーナ」
「いえ、その必要はありません。ジーク様がリオンに頼まれて何かをとりに来たのを私が偶然目撃しただけですから、理由もわかりましたし、場所を変えてまで話すことなどありません。では」
さてと、扉も空いているし、トンズラしようと医務室のドアを開けて廊下にでたけど。
私がこのまま寮に帰れるなんてことはやはり許されない。
「レーナ……。すまないが君はこのまま帰せない」
「なぜですか? なんの問題もないではありませんか。では」
なるべく平静を装い帰ろうとするけれど、ジークが私の腕を掴んだ。
「とぼけても駄目だということはわかっているだろう?」
聞きなれた彼の声なのに、ゾクリとした。
逃げ出したいのに、逃げだせない。
私の腕を掴んでない手が私に伸びる。思わず怖くて目をギュッとつぶる。
指先が私の頬をそっとなでる。
攻撃してくるわけではなかったのかと目を開けると、まっすぐに私を見つめる彼と目が合う。
ジークはたいてい張り付けたかのように愛想笑いをしている。だからこそ、無表情の今はあまりにも整い過ぎた顔のせいで人形のようだ。
そっと頬に触れられる指先はジークの気が変われば私一人どうこうすることなんて造作もないと言われているように感じた。
抵抗などできなくて、ジークに手を引かれるままついていく。
どこに行くのだろうと思えば、そこは図書室。彼が私とどこでお話しようとしてるかわかってしまった。
絶対に助けなどくることのないあそこで今はジークと二人きりになどなりたくない。
図書室へは入らず歩みを止める。
前を歩いていたジークが振りかえる。
「危害を加えるつもりはない。ただ確実に二人で話したいだけだ」
私には力もなく、魔力もなく、彼の自己申告を信じて後ろをついていくしかない。
トボトボと足取りは重い。
図書室の秘密の部屋の入り口でジークが足を止める。
そして、私が教えたように本の背表紙に触れていく。
「我真実の探求者なり」
ジークがそう言うと、秘密の部屋に私達は転移した。
本当に私達は二人きりになってしまった。
私達しか入り方を知らない秘密の部屋で。
「本当に二人きりだね、レーナ」
ジークのひどく甘いはずのセリフに私は背筋が凍った。
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