炭谷 愛梨 ②

 なんか、今年の前期はあっという間に終わる気がする。


 麻里先生の離任式では思いっきり泣いてしまった。私だけじゃなく、リセルも愛美も。オン君まで涙を浮かべていたのには少し驚いた。美咲ちゃんのおかげでクラス全員の寄せ書きが出来て、麻里先生も泣きながら喜んでくれた。似顔絵も上手だって褒められたし、また卒業式の時に来賓として来てくれる、って。

 そう言えば、山野先生はどう思っていたんだろう。ああいうときの先生の気持ちて、分からない。今の担任は自分なのに、みんな、麻里先生のことが大好きオーラを出しちゃってたから、やっぱり少し怒ってたのかな。ウンウンて、うなづいて見てたから怒ってなさそうには見えたけど。


 私にとっての一大イベントが終わった後も、運動会やら移動教室やらで気がついたら夏休み。春休みより長いのに、自主学習があったり、水泳教室があったり、お祭りでもみんなと会うから、学校が始まったのに久しぶり感があまりない。あと一ヶ月で前期が終わりということは、五年生になって半分が終わるってことだから、やっぱりあっという間だ。


 そんな残り少ない前期の校外学習について、動画撮影をする話を山野先生から聞いた。スマホを使って、墨田区の良いところを紹介するショートムービーを作って、YouTubeにアップするなんて、私たちYouTuberじゃん! ミーハーなところがある美咲ちゃんは、今からもうテンションが上がっている。

「それじゃ、初めにどこを紹介するかを決めましょう。校外学習だから、みんなが勝手に好きなところを紹介するのではなく、どこか場所を決めて班ごとにそこの動画を作ります。意見のある人!」山野先生が教室を見渡して言った。

「はい、高井くん」

「タワービュー通りがいいと思います。学校の前だし、スカイツリーも見えるし」

「それなら、スカイツリーにした方がいいじゃん」

「スカイツリーはもう有名だから!」

「だからいいんじゃないの?」

「意見のある人は手を挙げて。それじゃ、福田さん」

「つながりがテーマだって先生が言ってたので、錦糸公園がいいです」

「どうして?」

「運動会でいつも使っているから」

(あぁ)とか、(そうだね)という声が聞こえる。

「学校につながりがあって、紹介したい場所は他にあるかな?」

「親水公園! 去年、自然観察で行ったし」

(それ、賛成)と思った。親水公園はよく遊びに行くし、気持ちが良くて好きな場所だ。

「他にはどうかな? なければ、多数決で決めるけどいいですか?」


 多数決の結果、錦糸公園に十五票、親水公園に十三票、タワービュー通りに五票だった。残念、錦糸公園に負けちゃった……と思っていたら、壮太がいきなり、

「先生! 錦糸公園と親水公園、両方でいいと思いまーす」

「両方?」先生、予想してなかったみたいで驚いてる。

「だって接戦だし、班を二つに分ければいいでしょ?」

「賛成!」親水公園派の後押し応援が続いて、先生も「それじゃ、他の先生と相談してみるから」ということになった。


 次の日、錦糸公園には山野先生、親水公園には小人数教室担当の岡田先生が引率していくと決まった。班分けは席の通りで、全部で八班。私の班はリセルと高井君、水島君だ。班ごとに相談して、どちらへ行くか決めることになった。

「どうする、どっちがいい?」と高井君。

「私は親水公園」と私。リセルも「親水公園がいい」

「どっちでもいいよ」と言う水島君の意見を聞いて、「それじゃ、この班は親水公園にしよう」と班長の高井君が決めた。

「それぞれ四班ずつにするから、もし希望が多かった方は班長がじゃんけんして決めるよ。それじゃ、まず錦糸公園を希望する班は?」

 先生がそう言って、手を挙げた班は――四つだ!

「あっ、ちょうど四班だね。それじゃ、他の班は親水公園でいいかな?」


 こうして私たちの班は、親水公園でショートムービーを撮ることになった。

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